嗚呼、恐ろしや。
朝のアタシよ。
あのドヤ顔で家を出た自分をそっと自宅へ呼び戻したい。
服装もお洒落にキメた。
電車にも間に合った。
なのに、どうして眉毛だけ描き忘れたんだ?
額から上だけ、指名手配犯みたいじゃないか?
午前中の会議には、他社のイケメンのあの人も、参加していたというのに。
会議で話された懸案事項より、
アタシの「眉山ロスト事件」の方がよほど重大に思えてくる。
アタシは今。
昼休みの会社のトイレの鏡の前でフリーズしている。
だけど、午後になっても、誰も眉のことには触れないし。
眉毛がなくても、ちゃんと仕事は回っているよ。
さっきまで、世界の終わりだと思っていたけれど、
どうやら世界の方は、アタシの眉など気にしていないようだ。
それはそれで、少し腹立たしくもあるが、
鏡に向かって、そっとウィンクしてみる。
眉毛がないとか、ちょっと変な顔をしているとか、そんなことはどうでもいい。
それより、元気溌剌(はつらつ)1日しっかり仕事をこなしたアタシは偉かったね。
大丈夫。
明日はきっと、
いつもより少し、
自分に優しい線を引こう。

本日のまこメシ。
上司のダジャレより。
アタシの眉の方がスベってた。
【悲しみは旨いメシで埋めろの本日のランチのまこメシ。】
・豚肩ロースの炭火焼き定食

鏡に向かって宣戦布告。
「今日は綺麗に仕上げてやるからな」
ぐいっと一筆。
もう一筆。
あれ?
結構、太い?
アンタ、誰?
そこには見知らぬアタシがいた。
上司のネクタイより主張が強くて、
「本日のリーダーはアタシの眉です」とおでこにテロップが出ていそう。
それでも、1日ちゃんと仕事して、
「失敗した顔」でも仕事はきちんとやれるもんだと、少しだけ自分に感心した。
眉を描き忘れた日も、
眉を描きすぎた日も、
全部まとめて、
よくやった!
鏡に向かって小さく呟(つぶや)く。
大丈夫。
眉毛が変わるくらいで、
アタシの中身は変わらない。
アタシの世界は変わらない。

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