第39柱 私のもこり神様『二人のおんな』

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二人のおんな。


二人の女性が、小さなテーブルを挟み、静かに顔を突き合わせている。
最近、体調の芳しくない監督について、今後の相談をしているのだ。


一人は監督の奥様。
スラリとした和美人。
監督が劇映画を撮れない時代は、彼女が家計を支え続けた才女でもある。
料理上手で、監督の私生活の全てを司(つかさど)る女性だ。


もう一人はガガさん。
華やかな顔立ち、ダイナマイト・ボディの洋風美人。
監督の後期の作品の全てを支える女性プロデューサーである。
仕事に於いては、監督の女房役と云っても過言ではない。



ある意味で。
監督を愛し、監督から愛された二人の女性である。

監督の未来は、今から、この二人の女性により、大きく舵を切られるのかもしれない。

思わず、お茶を出す手が震えた。


「最近、監督の調子はどお?」

お茶を出し、下がろうとしたまこに、奥様が優しく問いかけてきた。


そうですね。
ちょっと不安そうな表情をされる事が増えましたね。
特に、「水回り」の使い方に、戸惑っているようです。

微笑を浮かべ、なるべく快活に応えてみた。
余計な不安を煽らないように。


「水回り」というのは、主に「トイレ」のことだ。
水の流し方やトイレットペーパーの使い方、ドアの開閉など、監督がたまに「戸惑い」を感じているように見受けられる。
気づくと、壁や床が汚れていることが、格段に増えたのだ。


「そう……。迷惑かけるわね」


「水回り」と伝えただけなのに、何かを察知したように、奥様がまこに優しく詫びた。


いえいえ。
全然、迷惑じゃないですよ。



「手伝うわけにもいかないもんな」

敢えて、茶化した言葉を選ぶガガさん。
その目は、テーブルの表面を見つめたままだ。

魂の記憶。


認知症。
誰もこのワードは口に出さないが、それが現実に迫ってきているのをヒシヒシと感じる。

いつもではないが、たまに、ホケッとしている監督の姿を見ることが増えた。

まるで、別人のような。
まるで、才能の棘が抜けたかのような。



いつか。
こんなに情熱を傾けた「映画」のことを、忘れちゃうのかな?
こんなに愛してくれた女性(ひと)達のことも、忘れちゃうのかな?


もこり神様が優しく告げる。
「忘れるわけじゃないのよ。全部、魂が記憶しているの」



だとしても。

その命尽きるまでは。
映画とこの女性ふたりへの想いだけは、そっとしておいていただけませんか?
削らないでいただけませんか?



監督の帰り際。
いつもなら男性助手が監督のサポートをしながら事務所を出るが、今日は奥様に支えられながら、静かに事務所を歩み去る。

女性の細腕で大変かと思いきや、奥様はテキパキと監督を誘導し、その顔は不思議と生き生きと高揚しているように見えた。



霊聴かな。「霊聴」については第34柱参照
奥様の心の声が聞こえた気がした。


「やっと私の元に帰ってきた。私だけの監督になった」




そんな二人の後ろ姿を、ガガさんが静かに見つめていた。

つづく

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