第35柱 『足音の違い』

スピリチュアル
※ アフィリエイト広告を利用しております
※ アフィリエイト広告を利用しています

足音の違い。


この制作会社は、社員以外にも、数多くの方が出入りしている。
カメラマンさん、音響さん、美術さん、スクリプターさん、配給会社さん、時には、出演俳優さんなど、多種多彩である。


中でも、監督の右腕ともいえる男性2名は、プロデューサー・ガガさんとも仲が良く、頻繁に現れる。

一人は、プロデューサーの谷原さん(仮名)。
長身、細身で、優しい物腰。
真白なTシャツにデニムがお似合いだ。
俳優の谷原章介さんに似ている超イケメンである。

もう一人は、ディレクターの風来さん(仮名)。
もっさりとした風貌で、がさつ感が否めない。
監督の作品に、ホームレス役としてエキストラ出演した際には、本物のホームレスさん達に『アンタの方が、よほど本物っぽいよ』と笑われた強者である。
ちなみに、風来さんの名誉にかけて追記しておくが、彼はしっかり一軒家を所有している。

そんな対照的な二人。
社内の女性人気は、当然、谷原さんの方が高い。
ミスした女性に対して、谷原さんは、「面白いことしてるね~」と笑いながら窘(たしな)めるが、風来さんは、「なにやってんだっ!」と恫喝してしまう。

もー、そういうとこ。
女子たちは、決して、見た目だけで判断している訳ではないのですよ。

恋って?


ある日の昼下がり。

どん、がが、どん、ががっ。

扉を乱暴に開閉し、廊下をがに股で歩いてくる騒音に近い「足音」。


間違いない。
風来さんだ。



「え? まこちゃん、足音で風来さんって分かるの?」

経理の慶子さんが、お茶を飲みながら、不思議そうに尋ねてきた。


そりゃあ、そうだ。
あれだけの騒音で登場出来るのは、風来さんくらいだ。
谷原さんなんて、足音まで優しくて、良い匂いがするぞ。



「もしかして、まこちゃん、風来さんの事、好きなの?」

下ナナメから舐めるような視線で、嬉しそうに聞いてくる慶子さん。
頬が少しだけ高揚している。



な、何を云ってるんですかっ?!


「だって、好きな人の足音って、すぐ気づくじゃな~い?」

ロマンチックな目をして、遠くを見つめる慶子さん。(←旦那と子持ち)
いやいや、楽しそうな所、申し訳ないのですが、きっぱり、否定させていただきます。



でも……。

そっか、好きな人って、足音だけでわかるもんなんだ。



人を好きになったことはあるけれど。
人並みに付き合ったこともあるけれど。




何だか、そういう気持ち、忘れてた。





そして、それはきっと、足音だけじゃない。
声や匂い、その人の纏っている雰囲気に至るまで。
きっと、きっと、好きな人の「それ」は特別なんだろう。











最近、恋してないな。


つづく

コメント