第62柱 『福の神と貧乏神』

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貧乏神。


オイラは貧乏神


痩せっぽちで、ボロボロの服を着て、
皆に嫌われ者のオイラだが、
れっきとした「神様」だ。


あちこちから追い払われ続け。
流れ流れて、今は「まこ」という名の女の家にいる。


四角い部屋を、丸く履き。
たまに、燃えるゴミを出し忘れる女だが。


アイツも、自分なりに、頑張っているようで。


部屋にお花を飾ってみたり。
鏡をキュッキュと磨いてみたり。


知ってるよ。
オマエが、涙を堪(こら)えて、一人で頑張っていることも。


だから、オイラ、そろそろ出て行こうかって、聞いたんだ。
そしたら、アイツはこう云ったんだ。


「行くとこなければ、居ていいよ」


嫌われ者のオイラなのに……。


実は、オイラも、西日の差すこの窓際が気に入ってたんだ。


もう少しだけ、居ようかな。


福の神。


ワシは福の神じゃ。


いつもニコニコ、ちょっとふくよか、
自分で云うのも、おこがましいが、
皆から愛されている「神様」じゃ。


引く手あまたのお誘いはあるが。
流れ流れて、今は「まこ」という名の女の家にいる。


休みの日には、昼まで寝ていたり。
心の中では、上司に悪態ばかりついている女だが。


アイツも、自分なりに、頑張っているようで。


誰もやらない雑用も、アタシがやるよと頑張ってみたり。
夢を見続けようと、心に決めたり。


知ってるよ。
オマエが、自分も幸せになっていいんだと、信じ始めたことも。


だから、ワシは、そろそろ出て行こうかって、聞いたんだ。
だって、ワシがいなくても、もう大丈夫だろ?


そしたら、アイツはこう云ったんだ。

「どうぞ行ってください。アナタも好きなように生きて」


誰もが引き留める「このワシ」に向かって、『好きなように生きろ』とな!?



偏屈者め。


ならば。
逆に、もう少しだけ、居てやってもいいぞ。

実は、ワシも、部屋のサイズにそぐわない、この大きなソファが気に入ってたんだ。

引越。


アタシはまこ。
昭和生まれの独身OLである。


一人暮らしを始めてから、3回の引越を繰り返し、
今は、駅近の西日の差す小さな部屋。
狭いが、結構、気にいっている。


昔から。
どうしても必要なお金は、必要な額だけ入ってくるが、
必要以上の贅沢なお金は、全く入ってこないんだ。


なんだろう?
貧乏神福の神が一緒にいるみたいだな。


だけど、これくらいで、ちょうど良い。
必要以上に手に入れても、きっと、零れ落ちるだけだ。


優雅な独身貴族とは云えないけれど。
これでも、結構、楽しく生きている。


この部屋も。
もう少しだけ広い部屋へ引越したいと思っているのだけれど。


西日の差す窓際に立っている神様と、

部屋にそぐわぬ大きめのソファに座っている神様が、

「出て行かないで」と云っている気がするんだ。




ならば。

もう少しだけ、ここに居てあげてもいいよ。

つづく

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