第5柱 私のおじさん神様 『竜の顔』

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竜の顔。

あれは20代前半。
とある休日の昼下がり。
父と母とアタシの3人で、レストランで食事をしていた時の話だ。


光の差し込む大きな窓から外を眺めていると。
20m先の歩道橋の上に、男が佇んでいるのが見えた。


30歳くらいか。
日曜の昼間だというのに、皺くちゃなビジネススーツを着ている。
疲れきったサラリーマンという印象だ。


男は一人、瓶のコーラを飲みながら、歩道橋の上から、遠くを眺めていた。
北関東は車社会。
歩道橋の下では、ひっきりなしに、車が行き交っている。



瓶のコーラって、珍しいな……。

そんな事を思いながら、何だか気になり、チラチラと男の動向を盗み見ていた。


何故だろう?
男の顔は真っ黒だ。
そして、瞳は……

空っぽだ。




アタシの視線に気づいたのか。
ふと、男と視線がぶつかる。

すると。

突然、男の顔が「竜」に変わる。
爬虫類を思わせる、恐ろしく、不気味な顔だ。
そして、カッと眼を見開いて、こちらを睨み付けてきたのである。


「なに見てるんだ! カーーーーッ!」


男の声か。
竜の声か。


「邪魔をするなー!」



硬直しているアタシに向かい、竜の首だけが、3Ⅾ(スリーディー)のように伸びてきた。
物凄い迫力とスピードだ。



ひょぇぇぇぇーーー!?

満席のレストランで、思わずのけ反るアタシ。



突然、イナバウアー姿になった娘に向かい、
両親が「どうしたの?」と訝(いぶか)しげに尋ねてきた。


「あの人……」

震える指で指し示す方向には、もう、誰もいない。
歩道橋の下に目を向けても、いつものように車が行き交い、日常だけが取り残されていた。




それから1週間後。
男はその歩道橋から飛び降り自殺をした。
即死だった。

新聞の地域版には、顔写真と共に、こう記されていた。
男性は仕事で悩んでいた。
歩道橋には、彼の鞄とコーラの空き瓶が残されていた、と。


掌(てのひら)で包めるほどの、小さな記事だった。


怖気づくな。


あの時に見た「竜」は、一体何だったのか?

男の怒りが具象化されたモノなのか。
それとも、何か邪悪なモノに、憑りつかれていたのだろうか。


真相は、わからない。
が、あの日、あの場所で見た男の顔は、確かに「竜」だった。
見るな、邪魔をするなとカッと見開いた眼で睨み付け、アタシに向かい、吠え叫んだのだ。


そう云えば。
ここ数年で、仕事の知り合いの中に、「竜」の顔をした男性を二人見かけた。
二人とも、急死した。

「竜」の正体はわからないが。
それでも自分が「何か」を正確に嗅ぎ取れれば、誰かの役に立つことが出来るのかな?

だけどね。
やっぱり、そんな「チカラ」欲しくないよ。
霊能力者になりたいとは思わない。
普通に生きていきたいよ。


おじさん神様は云う。

「チカラ」を得ることに怖気(おじけ)づくな。

そして、こうも云った。

溢れるほど得られたならば、人に与えればいい、と。







あの時。



歩道橋の男性に。

声をかけてあげられたら、よかったな。

つづく

コメント

  1. きょん より:

    鳥肌!!