第31柱 私のもこり神様『探偵物語』

スピリチュアル
※ アフィリエイト広告を利用しております
※ アフィリエイト広告を利用しています

探偵物語。

「いいか、絶対、監督から目を離すなよ」

聞いたよ、ガガさん。
もう、100回、聞いた。



映画制作会社に入社してから、半年が過ぎた。
まこの仕事は、事務職とは名ばかりの雑用係である。
毎日出勤する監督の食事の手配や、プロデューサー・ガガさんのアシスタント業務が主な仕事だ。


なのに、そんな雑用係が、何故、こんなことまでさせられているのだ?

探偵(監督の尾行)だ。



監督は、若い頃の不摂生がたたり、糖尿病を患っている。
失明、足の切断、心筋梗塞や脳卒中などの発症リスクも高い。

『万が一、監督が倒れた時に、誰かが側にいないとな』とガガさんは云う。

そう、監督は目を離すと、すぐに「消える」。
本屋、居酒屋、女性のところ。
よって、まこの仕事に、「探偵(監督の尾行)」が加えられたのだ。
そして、この任務は、監督に気づかれてはならない、極秘任務なのである。


ちなみに、監督の奥様からは、食事も見張って欲しいとの依頼があった。
禁じてはいるが、甘いモノには目がないのだ、と。


確かに、お菓子を隠している3階までこっそり行き、饅頭をむさぼり喰っていた。

糖尿病だぞ。
饅頭はダメだろ。

しかも、監督は足が悪く、普段から杖を突いている。
3階までの急な階段を、気合で這い昇ったのだ。


これは、敏腕探偵として、しっかりと監督の素行調査をしなくてはならない。


しかし、饅頭にかける執念。
むしろ、あっぱれである。


ある日の昼下がり。
監督が事務所をこっそり出て行った。
さぁ、まこさん探偵の出番である。


ゆっくりと杖をつきながら、歩を進める監督。
そのスピードは、亀より遅い。


しっかし、なんだろ?
あたし、絶対、怪しいよね?


住宅街で老人の後ろをコソついている女。
スタイリストさんに無理やり着せられた変装用の上着と眼鏡が、やけに切ない。

カツラも渡されたが、あれは拒否して正解だったな。
(多分、怪しすぎて、捕まる)


監督の歩く速度に合わせ、電柱に隠れながら、こそり、ついてゆく。


「ついてくるな。帰れ!」

あ、見つかった。(汗)




「いえいえ、監督。これも私の仕事なんで」

「ふ。似合わんな」

鼻で嗤い、くるりと背を向ける監督。
再び、ゆっくりと歩き出す。

その後も、『帰れ』『仕事だ』『帰れ』『仕事だ』の攻防が続く。
そのうち、戦意喪失した監督が困ったように云い放った。

「たまには、歩いて家に帰りたいだけだ」



ふむ。
ならば、事務所に戻ったふりをして、監督が自宅に到着するまで、遠くから見守ろう。


『わかりました』と深々と頭を下げ、一旦、その場を離れた。
監督に背を向け、一つ目の路地を曲がる。
取り敢えず、この怪しげな上着と眼鏡を脱ぎ去りたい。

そして、ほんの数秒、監督から目を離したすきに、やや、やられた!
監督の姿が、跡形もない。
亀より遅い監督に、まかれた???



監督にもしものことがあったら……。

半泣きで、そこら中を走り回る。
監督の影すら、捉えられない。


ガガさんの鬼のような顔が目に浮かぶ。
どうしよう、どうしよう。


ダッシュで監督のご自宅付近まで行き、やはり居ないと肩を落とし、事務所方向へ戻る。

途中、脇道を少し入ったところに、見慣れぬ、小料理屋があった。
居酒屋と割烹の中間ぐらいか、古き良き昭和感が漂う店構えだ。
おそらく夜のみの営業なのであろう。
入口に吊り下がっている提灯は点灯していない。
スライド式の扉が、ほんの数センチだけ「不自然に」空いていた。


ん? まさか?

じっと目を凝らして、その「隙間」を見つめる。

















いた!


監督は寛いだ様子で椅子に鎮座し、その隣には女将さんだろうか、割烹着の60歳位の品の良い女性が寄り添うように座っている。
監督の片手にはお酒、もう一方の手は女性の掌を握り、指でゆっくりと摩(さす)っているではないか!



このエロじじぃめ。



監督とまこの視線がぶつかる。
ニヤリ嗤う監督。


くっそ。
アイツ、見つかるように、わざと扉を少しだけ開けてやがったな。



もこり神様は笑う。
欲は、人間の活力だな。




監督。
日本映画界の大巨匠。

活力の塊(かたまり)だ。

つづく

コメント