それでもアタシはやってない。
朝の通勤時間帯。
その日は、珍しく、電車は空いていた。
アタシは、扉から少し離れた場所に立ち、
電車の揺れに、ゆるり、身を任せていた。
すると、車両の前方から後方へと、
何かの「匂い」が漂い、そして、消えた。
クサい!
それも、猛烈に……。
これは、どこかで、嗅いだことのある匂いだ。
が、決して、懐かしさは感じない。
放屁(ほうひ)。
しかも、音のないヤツだ。
俗にいう「透かしっ屁(すかしっぺ)」である。
アタシは、禍々(まがまが)しい匂いに、顔を顰(しか)めた。
すると、アタシの風下(かざしも)に立っていた若い男性が、思い切り、アタシの方を見た。
その顔は、僅かに怒っているように見える。
違う。
アタシじゃない。
今、アタシが顔を顰めたのは、
強くイキんでいるわけではないのだぞ。
冤罪だ。
冤罪だ。
冤罪だー!
本日のまこメシ。
ホントに、アタシは、
やってない!!
【慰めのスイーツのまこメシ。】
・柔らか豆腐 きなこと黒蜜ソースかけ
・ほうじ茶
そもそも人間ならば、
尻からガスが出るのは、正常な生理現象であることくらい、重々承知している。
が、この狭い空間での毒ガス放出は、テロ行為に匹敵すると思うんだ。
しかも、何食わぬ顔をして、他人に罪をなすりつけようとは、卑怯千万(ひきょうせんばん)。
かくも簡単に冤罪は生まれるのか?
新犯人よ。
せめて、正々堂々と、「犯行声明(音)」を出してくれ。
さすれば、犯人を特定できるし、
無実の罪で苦しむ人も減るだろうからさ。
嗚呼。
結局、嫌疑は晴れぬまま、駅で降車することとなった。
誰にも聞かれていないのに、
「アタシじゃない!」と叫べばよかったのか?
それとも、更に、風上(かざかみ)に立っていた人に疑いの目を向け、
次なる冤罪?を産めばよかったのか?
わからない。
しかし、せめて、王者の顔をして。
パリコレのモデルのような足取りで、その場を立ち去ってやったぞ。
冤罪なき世界を。
心から望む。
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