そして、皆、いなくなった。
アク部長が就任してからというもの。
スタッフの入れ変わりが、激しくなった。
(アク部長については、第69柱 『悪魔が上司になるなんて』参照)
この短期間だけでも。
出向者は、精神科へ通い始めた者・1名、理由をつけて本社に戻った者・数名。
派遣社員の方は、すぐに辞めてしまい、もう7人目だ。
そして、大好きだったプロパーの同僚もまた、会社を辞めてしまった。
あしながさんも。
(あしながさんについては、第50柱『あしながおじさんの女房』参照)
松ちゃんも。
(松ちゃんについては、第60柱『夢を追う人』参照)
そして、あの花子先輩までが、「さすがに、心が折れるわ」と言い残し、会社を去ってしまった。
(花子先輩については、第43柱『一匹狼』・第44柱『ALIVE or DEAD』参照)
辛うじて残ったのは、アタシと経理の慶子さんだけ。
(慶子さんについては、第74柱『弱い犬ほどよく吠える』参照)
みんな、みんな。
大好きだった人達は、いなくなってしまった。
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アクの刃(やいば)。
会社の要(かなめ)とも云える花子先輩がいなくなると、
アク部長は、待ってましたと云わんばかりに、全てを力づくで掌握していった。
人事に至っては、一人で面接、一人で決定し、
その結果、職場には、YESマンか無能な人しか残っていない。
有能な人は、この不気味な職場の匂いを察知し、すぐに辞めてしまうからだ。
気の弱い経理担当者は、アク部長が私用で訪れた飲み屋の支払いまで、滞りなく清算してあげているようだ。
ある日、YESマンの一人が、アク部長にこう問いかけた。
「毎晩、飲み歩いて、大丈夫ですか? 『出来た』奥さんで羨ましいです」
すると、アク部長が、真顔で、こう言い放つ。
「イヤ、アイツ(奥様)も息子2人も、俺の事、大嫌いなんだよ。だから、俺が帰ってこなくて丁度いいんだ」
そして、その後、耳を疑うような言葉を吐き出したのだ。
「特に、下の息子とは合わない。二人目はいらなかった。産まれてこなけりゃ、もっと良いクルマが買えたんだ」
アク部長。
今、アナタ、人として許し難い言葉を、さらりと口にしましたよね?
他人の家のことにまで、口出しする気はないのだが。
ホント、奥様と息子さんが、不憫(ふびん)でならない。(涙)
そして、その薄汚いアクの刃(やいば)は、
とうとう、アタシにも振り下ろされる事となる。
つづく
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