第70柱 『会社なんて、誰か死ぬまで助けてくれない』

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会社なんて、誰か死ぬまで助けてくれない。


アク部長が就任してからというもの、事務所の中は、いつもシンと静まり返っている。
誰も喋らないし、誰も笑わない。
そう云えば、電話も来客も、めっきり減ったな。


アク部長が、ひと際ビクビクしている小柄な男性を呼びつけ、皆の前で怒鳴り始めた。
男性は、みるみるうちに挙動不審になり、吃音(どもり)が酷くなる。
軽いパニック障害を起こしているようにも見える。


こんな時に、何とか助けてあげたいのは山々なのだが。
庇って口を挟むと、むしろ、アク部長の怒りが増すことは実証済みである。
花子先輩もアタシも、嵐が去るのを待ち、解放された後に、話を聞いてあげることくらいしか出来ないのだ。


男性は、憔悴しきってアタシたちにこう告げた。


「毎日のように、皆の前で怒鳴られるのが辛い。今、精神科へ通っている」


可哀想に。
掌(てのひら)にびっしょりと汗をかいている。


「ボクは人を殺すことは出来ないから、自分が死ぬだけだ」



逃げろ!


ある日、男性は、アク部長には内緒で、夜逃げ同然で会社を去った。
出向元の人事部には、全ての事情を説明し、
金曜日まで働き、月曜日の朝には、机以外は跡形もなく消えていたのだ。


ふ。やるじゃないか。


自分の命と心を守ることは正当防衛である。
戦い方は、人それぞれ。
逃げるのも戦略の一つなのだよ。


この一件は、上層部でも多少ザワついたようだが、
結局、現場(アタシたちへ)の聞き取りは、一切行われず、
アク部長へのお咎(とが)めは、口頭のみだったようだ。


警察や行政は、人が死なないと動いてくれない。
会社も同じだ。


会社なんて、本当に誰か死ぬまでは、きっと、何にもしてくれないんだ。


心を殺されるって、
とてもとても、辛いことなのにね。

つづく

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