第6柱 私のおじさん神様『残留思念』

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残留思念。


「残留思念(ざんりゅうしねん)」とは、物や場所に残る強い思いのことだ。


この場所、イヤな感じがするなと思ったら、沢山の供花が手向けられていることがある。
悲しい事故や事件でもあったのか。
並々ならぬ強い感情は、物や場所(土地)に留まり続けることがあるのだ。

だからこそ。
「ネガティブ思念」がありそうな場所(心霊スポット、悲しい歴史を刻む場所など)には、安易に近づかない方が賢明だ。
苦しく悲しい思念には、アタシ如きが勝てる気がしないからである。



そして、「中古品」にも注意が必要だ。
前の持ち主の強い想念が宿っている可能性があるからだ。

勿論、中古でも素敵なモノは多い。
「自分が」それを本当に必要と感じたなら、入手しても構わない。
が、「このコ(物)が私に『連れて帰って』と言っている気がする」なんて、何者かに操られている人は要注意だ。
この場合、はっきり言って、元持ち主の方が「格上」だ。
購入後、間違いなく、その「思念」に操られることになる。


アタシの場合。
インドの民族衣装をリメイクしたクッションカバーを購入した後。
民族衣装の持ち主の想念に操られ、あんなに苦手だったインド映画(ボリウッド)を連続で「観させられた」ことがあった。
ま、意外に面白くて、今ではインド映画の大ファンになってしまったのだが。

「格上」の想念には、逆らえないのだ。

インド映画、最高!

サイコメトラー。


「残留思念」を読み取れる人を「サイコメトラー(サイコメトリスト)」という。


映画やドラマなら。
主人公の「サイコメトラー」が物体や人に触れることで「残留思念」を読み取り、殺人事件などを見事に解決に導く。
そして、それは架空の話ではなく、海外では、実際に事件捜査に活用している国もあるという。



おじさん神様は、こう云っている。

「人はもともとサイコメトリーの能力がある。ただ、能力があることに気づかず、生涯を終えるだけだ」




そして、アタシも、残留思念にまつわる不思議な体験をした。
映画の主人公のように、スパッと解決、というわけにはいかなかったが……。

パンツを守れ!


20代前半。
両親と一緒に北関東の実家に住んでいた時のことだ。
洗濯物を干すと、アタシの下着だけがなくなる事が続いたのだ。


最初は、気のせいだ、洗濯物が風で飛んだだけだ、と思っていた。
が、数回続くと、流石に気になる。



そして、それから、数日後。
夕方、洗濯物を取り込もうとした時に。
「それ」は、突然、やってきたのである。



あれ?
お気に入りの下着だけない。

入念に周囲を見回す。
落ちてもいないし、飛んでもいない。

流石におかしい。
朝、自分で下着を干した筈の場所に、不自然な「空き」があるのだ。




もしかして、下着泥棒?

ふと、そう思った瞬間、激しい悪寒を感じた。
黒くて、暗くて、悍(おぞ)ましい。
この場に残る、強い「残留思念」を感じとったのだ。


次の瞬間。
もの凄い勢いで、引っ張られるような眩暈(めまい)に襲われた。
細く、長く、耳鳴りが止まらない。










数秒後。








誰か、こっちを見てる?

洗濯物干し場のすぐ向こうの壁から。
誰かがジットリとこちらを見ている。


若い男だ。
細身で赤いジャンパーを着ている。
キツネのように吊りあがった細い目。
頭は坊主だ。


気が付くと、なくなった筈の下着が、アタシの目の前で揺れている。
何かがおかしい?
それに……。
至近距離にいる筈の男には、アタシの姿は全く見えていないようである。



この状況は、何だ?
自分が、犯行時刻へタイムスリップしたのか?

いや、違う。
この地に残った男の「残留思念」を読み取り、犯行の映像を視ているのだ。




男は、壁の向こうから、舐めるように下着を見つめている。

アタシの身体は、金縛りにあったように全く動かない。
そして、物凄く、気持ちが悪い。
胸の奥をわし掴みにされて、強引にひっくり返された感じだ。


男は、周囲を気にしながら裏門へと進み、音を立てぬようにスーッと扉を開いた。
敷地内に侵入してくる男の表情は、無機質だ。


アタシは白目をむいている。
そして、第3の目で流れる映像を視ている。
そんな気がした。


男の手が、ゆっくりと下着に伸びてきた。
そして、下着を手に取り、その柔らかい感触を楽しむと、初めてニヤリと嗤った。

怖い。
自分の目の前に、男の顔がある感じだ。






ひぃぃぃぃぃぃーーーーっ!









突然、耳鳴りが止んだ。

男の姿も。
下着も。

消えてなくなっていた。

どうやら、元の世界に引き戻されたようだ。






目の前で。
ピンチハンガーだけが、しゃらりしゃらりと揺れていた。



次の週末。

結婚して家を出た姉が、実家に遊びに来ていた。
何故か、ご立腹のご様子。
門の前で、仁王立ちだ。


「アンタの知り合い? 知らない男の子が、門の前から、ずっと家の中覗いてたよ」

「え? どんな子?」

イヤな予感しかしない。

「うーん。近所の中学生かな。声をかけたら、黙って行っちゃったよ。ヘンな子」

中学生?
坊主だった?

「そう。坊主頭で細い男の子。目もキツネみたいに細かったな」




間違いない。アイツだ!

きっと、下着の持ち主を、見に来たのだろう。
恐ろしい。
そして、なんと悍(おぞ)ましい。



下着泥棒に告ぐ。
オマエの顔は、分かってるぞ!


しかしながら。
警察に訴えるだけの物証はない。
自分の頭に映像はあるが、監視カメラの映像は存在しないのだ。
残念ながら、泣き寝入りするしかない。


しかし、姉に、助けられたことがある。
下着泥棒は、庭にいた「姉」が下着の持ち主だと勘違いしたようだ。

あの日、下着泥棒と対峙した姉は、出産したばかりで、産後太りだった。
お洒落に気を使う余裕がなく、ノーメイク、ショートカット、スエット姿。
家を覗き込んでいた怪しい男に向かって、鬼の形相をして声をかけてくれていたのである。


下着泥棒よ。
下着の持ち主が、怖そうな姐さんで、びっくりしただろうな。

姉の超ファインプレーである。

オマエ、なんか用か? 家、覗いてんじゃねーぞ。



ちなみに、あれから、下着泥棒には、1度もあっていない。
お姉ちゃん、Good Job!


追記
あれから姉はすくすくと痩せて、いつもの綺麗な姉に戻った。
姉の名誉にかけて、きっぱりと記載しておく。

つづく

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