第58柱 私の母さん神様『出逢い』

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出逢い。


その頃。
映画界で2度目の転職を果たしてから、数年が経過していた。


仕事量も多く、変わった人も多い業界だが、
花子先輩あしながさんなど同僚にも恵まれ、
毎日が新鮮で、充実した日々を過ごしていた。
(花子先輩は第43柱『一匹狼』、あしながさんは第50柱『あしながおじさんの女房』を参照)




この頃の上司が、よく云っていた。

「人生は、全て、人との出逢いで決まるんだ」

「才能や努力ではない。誰と出逢ったかということだ」と。



勿論、才能や努力も必要だと思うし。
心の熱量や、環境、運なんかも関わってくるんじゃないかな、とは思うけど。

確かに。
たった一人の人間と出逢い、人生が変わることもある。




誰と出逢うか。

誰と出逢えるか。

誰と出逢ってしまったのか。

誰と出逢えるように、自分の人生を仕向けていけるのか。



出逢いは運命なのか?
それとも、自分で手繰り寄せているのだろうか?

生まれる前の記憶。

たった一人の人間と出逢い、運命が変わることがあるのであれば。
まこの人生を決定づけた最初の出逢いは、
やはり「母」ではないか。


愚かな話だと笑う人もいるだろうが。
まこには、生まれる前の記憶がある。
いや、これは夢なのか、妄想なのか。
もはや、答え合わせが出来ないでいるのだが。





生まれる遥か前から。

まこは、空を漂っていた。

急発進、猛スピードで空を飛ぶ。

方向を自分で定めることは出来ない。

凄いスピードで飛んでは止まり、

止まっては飛ぶを繰り返していた。




下を見ると、

河や道路、ビルや民家の屋根が見える。

「緑」の屋根。

珍しいな。




ある日、ふと、こう思った。

お役目が決まった。
「下」に行かなくてはならない
、と。

しかし、「下」に行くには、人の協力がいることを、不思議と知っている。



すると、神か、菩薩か、人なのか。

白くふっくらとした美しい女性が、雲に乗って浮かんでいるのに気づいた。

周囲には、少し離れて、何人かの女性が浮かんでいるようだ。

が、まこは迷わず、その女性の元へと、一直線に向かう。



「スミマセン。身体をお借りしてもいいですか?」

女性は笑顔で頷いた。

すかさず、彼女の中に入る。




次の瞬間。




もの凄いスピードで、彼女と一緒に、垂直に落下した。

あまりのスピードに、一瞬、怖いと感じたが、

「緑」の屋根が見えた時には、すこし安堵した。




それから暫くして。

闇の中、

曲がったトンネルを滑り出て、

眩(まばゆ)いばかりの光が見えた時には、

驚きと恐怖と感動で、

声を上げたのを覚えている。





あの時、雲に乗って浮かんでいたのが、
まこに身体を貸してくれたのが、
最初に出逢ってくれたのが、
「母」であることに、今でも感謝している。



そして、小学生くらいになって気づいたが。
まこが生まれた頃の、我が家の屋根は、
珍しい、
「緑」の屋根瓦だった。


つづく

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