第54柱 アナザーおじさん神様『八方美人』

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八方美人。

「キミは、八方美人だね」

いつも優しいEさんが。
珍しく厳しい顔をして、まこに告げた。

「八方美人じゃ、仕事は上手くいかないよ」



Eさんは60代男性。
映画界の重鎮で、まことは別の会社に勤務している。
ほっこり見た目や、優しい喋り方が、政治家の鈴木宗男さんを連想させる。
(なので、このブログでは、彼の事をムネオさんと呼ばせていただく)


ムネオさんは情に厚く、業界中の後輩の面倒を見てくれる、頼りになる先輩だ。
この日も、お茶菓子を持って、わざわざまこの会社に立ち寄ってくれたのである。

いつもなら、とりわけ、まこを可愛がってくれるのに。
「八方美人じゃ、ダメだ」なんて……。
どうして、急に、そんな厳しいことを云うの?




む!
八方美人の何が悪いのですか?!

つい、ムキになって、強めに云い返してしまった。
だって、何だか裏切られた気分。
ムネオさんだって、笑顔のまこの方が好きだよね?


それに。
どんな時でも、全方向、笑顔でヒトに親切にするのは。
実は、結構、大変なんだぞ。



「キミは、ヒトに嫌われたくないから、いい顔しているだけだ」

諭すように続けるムネオさん。

「仕事では、敢えて嫌われるような事を、はっきり云わなきゃいけない時もある」







確かに。


勿論、協和融合は必要だ。
いつでも互いに笑顔で過ごせるなら、それに越したことはない。


だけど、真剣に仕事に向き合っていると。

考え方の違う人や。
約束を守れない人や。
やる気のない人や。
ズルい人に。

図らずも、出逢ってしまうことがある。


そんな時。
本当は、はっきりと伝えなければならない事もあるのだが。

嫌われたり、怒らせたりするくらいなら。
面倒なことになるくらいなら。

自分が我慢すればいいや。
文句を云わず、自分でやってしまった方が楽だと思うことはある。


結局、本心を伝えずに。
偽りの平和を選び。
のらりくらりと人生を進めてしまう事が、そう云えば、いっぱい、あったな。




「人当たりが良いのは、魅力の一つだ。だけど、云いたいことや、云わなければならない事は、遠慮してはダメだよ」


いつも優しいムネオさんから叱られたのは。

後にも先にも、この一度だけだった。


遺言。


ムネオさんが、亡くなった。
暑い夏のことだった。


ムネオさんが重い病だったことは、全く知らなかった。
一部の人以外には、病気のことを伏せ、ギリギリまで精力的に仕事を続けていたからだ。


告別式には、沢山の人が集まった。
暑い暑い酷暑だというのに。
汗を、涙を拭いながら、大勢の人が弔問に訪れた。



ムネオさんがくれた言葉は。
遺言のように、心の奥深で、何度も繰り返しているよ。



ムネオさんの云う通り。
云いたいことや、云わなければならない事は、遠慮していてはダメだ。
特に仕事の場面では。
棘(とげ)のような言葉でも、伝えなければならない時もある。


でもね。
やっぱり、嫌われたり、怒らせたりするのは、凄く怖いよ。
結局、自分は、ヒトに怯えているのだ。
まこは、オバケより、ヒトの方が怖い。
ヒトは、ヒトを傷つけるから。



だけど。
ムネオさんが、云いにくいことを、まこに伝えてくれたように。
誠意を持って伝えれば。
大抵のことは、理解して貰える筈だ。


ムネオさん。

あの時。

叱ってくれて、ありがとね。
伝えてくれて、ありがとね。


ムネオさんのように。
強くて優しいヒトになれるよう頑張るね。

夢枕で添い寝。


先日、ムネオさんが、「夢枕に立った」。
正確に云うと、「夢枕で添い寝した」である(笑)。


ムネオさんは、丑三つ時に現れた。
丑三つ時については、第10柱 私の母さん神様『丑三つ時に会いましょう①』を参照)
そして、まこが寝ているベットの隅っこで添い寝して。
少し離れた場所から、まこをニコニコと見つめていた。




ムネオさんは。

何も話してはくれなかったけど。



ただ、笑顔でいてくれたから。



少しは安心してくれているのかな?


八方美人。
きちんと、卒業できていますか?

つづく

コメント

  1. Rei より:

    八方ブスより全然エエと思います。