第48柱 『女の事情』

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漏れてますよ。


「彼、もしかして、妻子持ち?」

直球勝負で聞いてみる。
素直な瑠璃子には、変な小細工は不要だ。



すると。
「能面」だった瑠璃子の顔がするすると赤くなり、「人の顔」に変わる。
そして、大きく目を見開き、怒ったようにアタシに問い質(ただ)してきた。


「誰に聞いたの?!」

いや、そんな気がしただけ、と惚(とぼ)けてみせた。
たった今、瑠璃子から「心の声」を聞いたよ、なんて云えやしない。



「瑠璃子、私ね」

瑠璃子に向かい、ぽつり、語り始めた。


「男と女の情事(こと)には、口を出さない主義だし。
だから、引き留めもしないし、応援もしないけど」


先ほどとは打って変わって、
温もりを感じる表情で、じっと見つめてくる瑠璃子。


縋(すが)るような、何かを恐れているような。
でも。そう、これこそが瑠璃子の生きた瞳だ。


「どんな風に生きるかは、瑠璃子が決めればいい。
とにかく、アタシは瑠璃子の幸せを、チカラ一杯、願うから」

最後の方は、もう、泣けてきた。
だって、既に、瑠璃子が号泣してるから。



「うん。ありがと」

鼻をすすりながら、小さな笑顔をみせる瑠璃子。


なんだ、なんだ、幼い少女みたいじゃないか!

きっと。
彼女なりに、悩んで、苦しんでたんだな。


聞いて欲しかった。


「ホントは、もっと早く話を聞いて欲しかった。
でも、話せるわけないじゃん。
絶対、怒られると思ってたから」

涙でぐしゃぐしゃになった顔で、瑠璃子がしゃくり上げる。


怒るわけないじゃない。
罪悪感で一杯の人を。


だけどね。
彼には少し腹がたつ。
だって、対等じゃないじゃない?


「瑠璃子にとっての一番は、彼だけど。
彼にとっての一番は、お子さんでしょ?
瑠璃子、それでいいの?」


「いいわけないじゃん」

赤く染まった鼻の頭を触りながら、瑠璃子が続けた。


「彼にとっての一番は、お子さんでいいの。
それより、私にとっての不動の一番が彼だって事に、腹が立つの!」

思わずそこで、二人、目を合わせて、思い切り笑ってしまった。
笑いが弾けると、漂う邪気みたいなモノが、恐れをなして逃げていく気がした。



それから、まぁるい目をした瑠璃子が、不思議そうに聞いてきた。

「でも、どうして彼が結婚してるって解ったの? 子供のことも……」



あのね、瑠璃子。

「心の声」漏れてますよ。


女の事情。


女という生き物は。
自分を幸せにしてくれない男なんて、大嫌いで。


それでも。
もしかしたら。
もしかしたら。
自分は特別なんて、信じちゃう生き物で。


だけど、ホントは分かってる。
女の恋心を利用する男は、お断りだ。


そして、自分から別離を決めたなら、振り返らない生き物で。
傷つくことも、傷つけることも、もうしない。
その男のことなんて、どうでもよくなるからだ。


暫くして、瑠璃子は別の男性と結婚した。
今でも、その男性と幸せな生活を送っている。





瑠璃子に限らず。

周辺の女性たちの恋愛模様は、実にハラハラさせられる事が多いが。


罪深い女ほど、美しい。

つづく

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