漏れてますよ。
「彼、もしかして、妻子持ち?」
直球勝負で聞いてみる。
素直な瑠璃子には、変な小細工は不要だ。
すると。
「能面」だった瑠璃子の顔がするすると赤くなり、「人の顔」に変わる。
そして、大きく目を見開き、怒ったようにアタシに問い質(ただ)してきた。
「誰に聞いたの?!」
いや、そんな気がしただけ、と惚(とぼ)けてみせた。
たった今、瑠璃子から「心の声」を聞いたよ、なんて云えやしない。
「瑠璃子、私ね」
瑠璃子に向かい、ぽつり、語り始めた。
「男と女の情事(こと)には、口を出さない主義だし。
だから、引き留めもしないし、応援もしないけど」
先ほどとは打って変わって、
温もりを感じる表情で、じっと見つめてくる瑠璃子。
縋(すが)るような、何かを恐れているような。
でも。そう、これこそが瑠璃子の生きた瞳だ。
「どんな風に生きるかは、瑠璃子が決めればいい。
とにかく、アタシは瑠璃子の幸せを、チカラ一杯、願うから」
最後の方は、もう、泣けてきた。
だって、既に、瑠璃子が号泣してるから。
「うん。ありがと」
鼻をすすりながら、小さな笑顔をみせる瑠璃子。
なんだ、なんだ、幼い少女みたいじゃないか!
きっと。
彼女なりに、悩んで、苦しんでたんだな。
聞いて欲しかった。
「ホントは、もっと早く話を聞いて欲しかった。
でも、話せるわけないじゃん。
絶対、怒られると思ってたから」
涙でぐしゃぐしゃになった顔で、瑠璃子がしゃくり上げる。
怒るわけないじゃない。
罪悪感で一杯の人を。
だけどね。
彼には少し腹がたつ。
だって、対等じゃないじゃない?
「瑠璃子にとっての一番は、彼だけど。
彼にとっての一番は、お子さんでしょ?
瑠璃子、それでいいの?」
「いいわけないじゃん」
赤く染まった鼻の頭を触りながら、瑠璃子が続けた。
「彼にとっての一番は、お子さんでいいの。
それより、私にとっての不動の一番が彼だって事に、腹が立つの!」
思わずそこで、二人、目を合わせて、思い切り笑ってしまった。
笑いが弾けると、漂う邪気みたいなモノが、恐れをなして逃げていく気がした。
それから、まぁるい目をした瑠璃子が、不思議そうに聞いてきた。
「でも、どうして彼が結婚してるって解ったの? 子供のことも……」
あのね、瑠璃子。
「心の声」漏れてますよ。
女の事情。
女という生き物は。
自分を幸せにしてくれない男なんて、大嫌いで。
それでも。
もしかしたら。
もしかしたら。
自分は特別なんて、信じちゃう生き物で。
だけど、ホントは分かってる。
女の恋心を利用する男は、お断りだ。
そして、自分から別離を決めたなら、振り返らない生き物で。
傷つくことも、傷つけることも、もうしない。
その男のことなんて、どうでもよくなるからだ。
暫くして、瑠璃子は別の男性と結婚した。
今でも、その男性と幸せな生活を送っている。
瑠璃子に限らず。
周辺の女性たちの恋愛模様は、実にハラハラさせられる事が多いが。
罪深い女ほど、美しい。
つづく
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