第47柱 『心の声』

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心の声。


「奥さんだけならね、アタシ、絶対、負けないと思うんだ」

「でも、子供がまだ小さいみたいで。それが、ちょっとね」


瑠璃子の突然の告白に、
何と答えていいのか解らず、躊躇(とまど)っていた。




すると。


まただ。
空間が更に歪む。


そして、今度は、耳鳴りもする。



薄い色のついた映像が、頭のどこかで、コマ送りのように流れ出す。
小さな男の子が、家の中から庭に向かって、勢いよく走り出てくるのが視えた。


4~5歳くらいか?
栗色の髪を持つ、元気で可愛い男の子だ。


おそらく。
瑠璃子の想い人の子供であろう。


一瞬の映像だけで、
男の子がとても愛されて育っているのが、感じとれた。




神様のバカ。
余計に、何も云えなくなるじゃないか。


アタシは、瑠璃子の友達なのに。
瑠璃子に幸せになって欲しいだけなのに。


こんな映像を視せられて。
何が正しくて、何が悪いかなんて、
どちらの視点に立つかで、するりと変わってしまうんだ。


空間は歪んだまま。
瑠璃子の顔も、相変わらず、能面のようだ。


命を持たない冷たい顔が、
まじろぎもせず、ジーっとこちらを見つめてくる。




だけど。

何かがおかしい?
周囲から、音という存在が、全て消えてしまったようだ。




そう。
この感じ。
これは、おそらく。






霊聴(れいちょう)だ。





瑠璃子がアタシに、
こっそり、本音を明かしてくれたわけではないようだ。



嗚呼、また……。



彼女の「心の声」が聴こえてしまったんだ!



霊聴(れいちょう)


霊視は、よく聞く言葉だが。
霊聴とは、通常は聴こえない音を聴き取る能力のことである。


アタシは、たまに、
不思議な「声」を聴き取って(感じとって)しまうことがあるようで。
(関連記事:第34柱 神様の声の聞こえ方


それは、亡くなった人や守護霊など、目に視えない存在の声であり、


そして、たまに。
生きている人の「心の声」を拾ってしまうことがあるようだ。




過去の経験からすると。

話し手が(瑠璃子のように)悩んでいて、
実は、聞いて貰いたいと願っている時だけ、アタシの耳に届くようだ。


正直。
生きている人の「心の声」は、聴きたくない。
知りたくもないのだが。


それでも「聴こえる」という時は。
その声を聴いてあげる事が、きっとアタシのお役目なんだと思っている。






能面のような瑠璃子の表情は。
見る角度によっては、微笑むようでもあり、また、悲しげでもある。


瑠璃子は、この恋を、楽しんでいるの?
それとも、恨んでいるの?



いいよ、瑠璃子。
今夜は、とことん聞いてあげる。

ただし、心の声じゃなく、実際の声でね。

つづく

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