終わりの美学。
「急で悪いな。退職金も出せないけど」
ガガさんが、無理に笑顔を作り、まこに告げた。
抗(あらが)う筈などない。
『わかりました』と静かに受け入れるだけだ。
結局、監督率いるこの映画制作会社は、収束へと舵を切った。
正確に云うと、会社の名前は残し、著作権所有物のみを監督のご家族が引き継ぐ。
が、それ以外の業務は、映画制作も含め、全て終了し、事務所も閉めるとのこと。
つまり、事実上の「解散」だ。
わかってる。
でも、実際に言葉で聞くと、結構な破壊力だな。
2年半という短い間だったけど。
慣れ親しんだ小さな幸せが、全部、全部、失くなっちゃうんだ。
もう一つのサヨナラ。
それからすぐ、まこはこの会社を去った。
ガガさんや経理の慶子さんは、残務処理があるので、少しの間、居残りだそうだ。
急遽、ガガさんが、まこの為に、ささやかながら送別会を開いてくれた。
が、そこにいた数人は、初めて会った、名前も顔も知らない現場の若いスタッフ達だった。
「無料(ただ)でご飯が食べられる」と何処かから聞きつけて、何となく集まってきたようだ。
だったら……。
ガガさんと二人だけの方が良かったのに。
終わりはいつもあっけない。
それは今回に限らず、何においてもそうだった。
夏から秋への移り変わりも。
お気に入りの家電の寿命も。
5年付き合った彼との別れも。
親友だと思っていた友人関係との終焉も。
そして、大切な人の命さえも。
終わりはいつも突然で、あっという間に全ての形を変えてしまうのだ。
もこり神様は云う。
「終わりが『悪』とは限らない。終わるからこそ、新しい『何か』が訪れるの」
そうね。
そうかもしれないけど。
やっぱり何かが終わるって、怖いよね。
明日が見通せないって、不安だよね。
「だからこそ楽しみなんじゃない」
もこり神様が楽しそうに笑う。
「オマエは、これから、何を選んでもいいのよ」
久しぶりの「オマエ」呼ばわり。
嫌いじゃないけど。(笑)
「自由なの」
もこり神様。
いつもより饒舌だ。
「それに」
姿は見えない筈なのに。
もこり神様の表情が、少しだけ真剣になるのを感じる。
「オマエの魂が、現状維持ではなく、前進することを望んでる」
射るような眼差し。
自分の内側に感じる、強く、優しい、もこり神様の瞳。
「だから、応援するわ」
ん?
なんだ? この感じ?
デジャブ?
しかも、自分の人生が大きく動くこの予感?
まさか……。
指導霊が、また、変わるの?
もしかして。
もこり神様も、消えちゃうのー?!
つづく
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