第26柱 私のもこり神様『ケツカッチン。』

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ケツカッチン。


映画制作会社(プロダクション)でのお仕事は、見るもの、聞くもの、全てが初めてばかりだった。

特に、業界用語は独特だ。
その日、最初に会った人への挨拶は、朝晩に関係なく『おはようございます』を使う。
『とらはとっぱらいで』と云った不思議な言葉が飛び交っているが、何を云っているか、皆目見当がつかない。
ちなみに、「とら」はエキストラ、「とっぱらい」は当日払いのことだ。




もこり神様が優雅に笑う。

「その共同体で必要な伝達手段なら、いいじゃないか」とのこと。

もこり神様、むしろ、楽しんでいないか?



カチンコ



しっかし、初めて足を踏み込んだ映画の世界、右も左もわからない。
ぼやっとしていると、容赦なく、プロデューサー・ガガさんから罵声が飛ぶ。


「18時にケツカッチンだから、バラセよ!」

「ケ、ケツ??? ちんちん?」

「馬鹿か、オマエは」

ガガさんが笑いながら、説明し始める。
男勝りで、口は悪いが、こういう時の説明は惜しまない、部下思いの優しい人なのだ。


「ケツはお尻、カッチンはカチンコ。撮影現場で、カメラを止める時に打つカチンコのことを『ケツカッチン』って云うんだ。監督が「カット!」をかけたタイミングだな。このカチンコが打たれたら、そこで全て終了。それが転じて、『次の予定があるので、終わりの時間を延ばせない』っていう意味になったんだ。『バラシ』は解散だな。つまり……』


「はーい! すぐに片付けまっす!」

ガガさんの説明を待たずに走り出す。
返事と逃げ足だけは早いアタシである。



だけど、ガガさん。
ケツ、ケツ、ケツ、ケツ、よく云えるな。


つづく

い、云えない……。

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