丑三つ時に会いましょう①
母の葬儀を終えた日の夜のことだ。
酷く疲れていて、
身も心も硬直したまま、布団に入った。
とりとめのないことばかり、
浮かんでは消え、消えては浮かぶ。
疲れているのに、眠れない。
かと思うと、乱暴に、浅い眠りに引きずり込まれる。
うつらうつら。
寝ているのか、起きているのか。
うつらうつら。
生きているのか、死んでいるのか。
人は、いつか、死ぬ。
だけど、それは、遠くで鳴り響く雷鳴のようだと思っていた。
怖いけど、まだ、遠いから大丈夫。
「いつか」は、いずれ辿り着く「遠い未来」だと信じていた。
浅い眠りの淵で、ふっと、空気が変わるのを感じた。
そう。
小さい頃から、ずっと敏感に感じとっている、あの「気配」がする。
来たな。
その「気配」は、いつもアタシをびくびくさせるんだ。
大切にしてくれる気配なのか。
脅かそうとしている気配なのか。
すぐには、正体が分からないからだ。
今日の「気配」は階段を上がり、部屋のドアから音もたてずにスルリと入ってきた。
そして、ベットに横たわるアタシの隣を、足元から頭の方へ、ゆっくりと通り過ぎて行った。
この「気配」は……。
母だ。
死んだ筈の母が、そこにいるのを感じる。
姿は見えないが、確かに「温かい気配」を感じるのだ。
お母さん! お母さん!
思わず、叫んだ。
心の中で叫んでいるのか、実際に叫んでいるのかも、わからない。
とにかく、必死で呼びかけた。
おかあさーーんっ!
母は返事をしてくれない。
「気配」だけが、部屋の中をゆっくりと横断し、
やがて、跡形もなく消えてしまった。
今のは夢?
それとも現実?
虚実の間(はざま)で、完全に目が覚める。
夜中に突然目覚めると、咄嗟(とっさ)に時計を見てしまうのは、人の習性だろうか?
午前2時。
まさに、怪談話でお馴染みの「丑三つ時(うしみつどき)」だ。
「丑三つ時」とは、午前2時から2時30分までの30分間のことを指す。
『草木が眠る丑三つ時に、魔物が跳梁(ちょうりょう)する』なんて昔話があるが。
いやいや、現代でさえ、不思議な時間帯だと、ずっとずっと肌で感じていた。
「丑三つ時」は、霊的なエネルギーがアクセスしてきやすい時間帯だ。
海が割れて、道が出来るように。
あちらとこちらの世界が繋がるような、不思議な時間帯なのである。
母が。
あちらの世界から、会いに来てくれたのだ。
つづく
コメント
私も亡くなった父の気配ではないか、と思うときがあります。と、思いたいのだと思います。
護られている感じ? 不思議です。
きょんさんへ
こちらが亡き人に「会いたい」と思うように、お父様の方だって、きょんさんに「会いたい」と強く願っているはずです。
絶対、護ってくれているのだと思いますよ。
本当に不思議ですね。
まこ