第65柱 私のあねご神様『選択』

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分かれ道。


ある時、会社の同僚が、真剣な顔をして問うてきた。

「私、人を好きになってもいいのかな?」


彼女は、経理担当のしっかり者。
女優の綾瀬はるかさんに似ている超絶美人である。
(なので、このブログでは、彼女の事をハルカさんと呼ばせていただく)


ハルカさんは、その美貌と優しい性格から、社内外を問わず、多くの男性ファンがいる。
そりゃあ、ハルカさん、人を好きになってもいいに決まってるよ、と云ってあげたいところだが……。


ハルカさんは30代の人妻だ。
確か、結婚7年目?
子供はまだ授かっておらず、旦那さんと二人、仲良く暮らしていると聞いていたが。


でもね。
本当は、アタシ、気づいてたよ。
ハルカさんが、同僚の年下独身男性から、猛アピールを受けていること。


普段なら、数多(あまた)のアプローチなんて、上手にかわしているハルカさんだけど。

彼とは、急速に距離が縮まって、
意図せず色っぽさが匂いたち、
なぜか哀しそうな表情が増えたよね。


これは、アタシに止めて欲しいのか。
それとも、背中を押して欲しいのか。

うーん、この二者択一は、難しすぎる。

ハルカさんは、人一倍、マジメな性格だ。
彼女の未来を大きく変える選択になりかねない。


なんと返事をするべきか、迷っていると、
それを察したハルカさんが、自ら、答えを出してくれた。


「ダメ……だよね?」

微笑んではいるけれど。
今すぐにでも、泣き出しそうだ。


ハルカさんは、縋(すが)るようにアタシの瞳をじっと見つめてくる。


ヤバい。
ハルカさんの心の声が聴こえてしまう。


ねぇ、私、どうしたらいいの。
教えて、ねぇ、教えて。

人生は選択の連続。


人生は、選択の連続だ。
日常の何気ない選択で、今の自分が創られている。


だからこそ、大切な選択は、誰かに委ねてはならない。
自分で自分の人生を選びとるしかないのだ。


意を決し、ハルカさんに向かい、静かに語りかけた。
今にも壊れそうな少女を、丁寧に、優しく、包み込むように。


「正直、アタシにも正解は分からないけど……。でも、人を好きになる気持ちは、誰にも止められない。良いも悪いもないよ」


一語一句逃すまいと。
ハルカさんが、固唾(かたず)をのんで聞いているのが、痛い程、伝わってくる。


「でも、その後、どうするのか、どうしたいのかは、二人で決めればいい。いや、ハルカさんが幸せになる方法を、ハルカさんが決めていいと思う!」

最後の方は、もう叫んでいた。
ハルカさんには、本当に、幸せになって欲しいのだ。


「ありがとう」

ハルカさんが優しく笑った。


潤んだ瞳。
透けるような白い肌。

恋心に揺らぐ彼女は、
本当に、
女神のように美しい。

女神。

あれから。

ハルカさんは、会社を辞めた。


恋を貫き、年下独身男性のもとへ走ったが。

あんなに熱烈にハルカさんを追いかけていた男性の方が、
受け止めきれないと、突き放したようだ。


前以上に哀しい顔をすることが増えたハルカさんは、
男性と距離を置くようになり、
何年も務めた会社も、逃げるように辞めてしまった。



ハルカさん。その選択で良かったのかな?

アタシ。ハルカさんの背中、押しちゃったのかな?




あねご神様が、静かに告げる。

「大切なのは、どちらの選択が正しいかではなく、選んだ自分を信じることだ」





数年後。
ハルカさんに、一度だけ、偶然出会ったことがある。


彼女は新しい仕事を始めていて。
今でも、変わらず、旦那さんと暮らしていた。


きっと、あの後も、沢山の「選択」を重ねてきたのだろう。
一度は手を伸ばしかけた、秘密の恋を胸の奥にしまいながら。


それでも。
ハルカさんは、やはり、圧倒的に美しかった。

愚かさの微塵もない、その横顔を見ていると、

例え、叶わなかった恋だとしても。
こてんぱんに捨てられたとしても。

この女神はきっと。

自分の選んだ道を、誇りに思っているに違いない。

つづく

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