第38柱 私のおじさん神様『別れの予感』

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別れの予感。


監督の部屋から、怪しげな「喘ぎ声」が聞こえてくる。
大きくなったり、小さくなったり。
事務所のスタッフたちは、壁から筒抜けのその「声」に、いつものようにニンマリと顔を見合わせる。


声の正体は、わかっている。
監督が映画のDVD鑑賞をしているのだ。
邦画の旧作は、色っぽい場面も多く、監督は「その」場面が出てくると、いつもボリュームを大きくして、リピート鑑賞するのがお好みだ。

はいはい。
監督、ほんと、好きね~。



だけど。
今日の「声」の調子は、何となくおかしい。
大砲クラスの「喘ぎ声」になったり、囁くような「それ」になったり。
TVリモコンのボリューム操作が壊れたのかな?



あまりに巨大なハレンチ声が流出しているので、慌てて、監督の部屋に様子を見に行く。

監督、どうかしましたかぁ?



監督は、リモコンを握りしめ、テレビ画面に向かい仁王立ちしている。

「何でもない!」


邪魔しちゃいましたね、ごめんなさい。



「つまらん映画だ。もう切ってくれ」

リモコンを手渡しながら、デスクに戻ろうとする監督。
『勝手に触るな』と云われている机の上は、本や書類がごちゃ混ぜだ。


では、お茶でもいれましょうか。

笑顔で立ち去ろうとした、次の瞬間。
監督の纏った空気が、一緒に扉の外へと流れ出す。



ヤバイ。


あの「匂い」がする。

加齢臭であってくれ。


加齢臭であってくれ。
そう願った。

が、加齢臭や体臭、衣服の生乾き臭などの類の「匂い」ではない。
第一、監督の奥様はしっかり者で、監督の身なりはいつもきちんとチェック済みなのだ。



自分も体調が悪い時に、自分の内側から発する特有の「匂い」を感じる事がある。
息、皮膚、排泄物 あるいは 纏っているオーラから漂う、腐敗したようなあの「匂い」。

微かではあるが、監督からそんな不快な「匂い」が漂ってくるのだ。
監督、どこか具合が悪いのかな?




自分の五感をフルに使え。
そして、第六感を磨け。


そう云えば、まこの初代・指導霊であるおじさん神様が云ってたな。
ピンチの時こそ、まずは五感を使えと。(第3柱「私のおじさん神様」参照)
第六感は、その後だ。



それからは、監督の行動を、今まで以上に、よく見て、よく聞いて、よく感じるようにした。

注意深く。
注意深く。



すると、ちょっとした事だが、違和感を覚えるような事が出てきた。
最近の監督は、以前より怒りっぽくなった。
そして、同時に不安そうな表情をする。
以前は、箸やフォークを器用に使っていたが、食べ物を手で掴む事が増えた。
あとは、そう。
トイレの使い方が、非常に「下手」になった。


うん。
何かがおかしい。


あの「匂い」が追いかけてくる。

つづく

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