謎のアメリカ人。
アキさん(仮名)は、同じ職場の派遣社員さん。
40代独身、とっても仕事の出来る女性である。
そんなアキさんとランチをしていたら。
度々、アキさんのスマホにメッセージが入る。
なに、なに? もしかして、彼氏さん?
「うん。そうなの」
頬をほんのり染め上げて頷くアキさん。
「彼、アメリカ人で、今は米国にいるの。軍人で、前は日本にも駐在してたみたい」
どこで知り合ったの?
「秘密」
悪戯っぽく微笑むアキさん。
「今は、ちょっと問題があって会えないけど、彼が日本に来るための渡航費も一緒に貯めているの」
ん?
「彼のご家族が事故にあってね。お金が必要だし」
んん??
「でも、いつか会えると信じている」
それ、ロマンス詐欺やで。
あのー。
まさかとは思うけど。
アキさん、それ、最近よく聞く国際的な「あれ」に似てない?
「違うよ~」
笑って否定するアキさん。
そうだよね。
ごめん、ごめん。
「ほら、見て。彼、もう1年以上も、毎日、連絡くれるの」
スマホを差し出し、メッセージを見せてくれるアキさん。
「Honey.」
「I love you.」
「I can’t live without you.」
そんな中。
チラと見える「$1000」や「money」の文字。
「二人の未来のために、送ってるの」
アキさん、それ、やっぱ、ロマ……。
「チゲーよ!」
恋は盲目。
暫くして、契約を満了し職場を去ったアキさんから、突然、電話がかかって来た。
「ねぇ? 絵を買ってくれない? 彼が描いた絵なの。すっごく素敵なの」
電話に出るなり、まくし立ててくるアキさん。
「絵が売れたら、そのお金で、日本に来るって云っているの」
ごめんね。彼の絵は買えないよ。
「彼の絵を侮辱するなんて許せない! もういい!」
アキさんは激しく云い殴り、回線も心もプツンと切れた。
恋は盲目。
でも、そんなの当たり前だ。
恋が悪いわけでも、アキさんが悪いわけでもない。
悪いのは、アキさんの純粋で無防備な心につけ込んでくる、その男なのだ。
(男なのかも、わからないが。)
もう。
遠慮せず。
声を大にして云わせて貰おう。
「アキさん、気ぃつけ。それ、国際ロマンス詐欺やでー!」
つづく
(けど、アキさんの話はつづかない)
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