女子会。
「違う、違う! 全然、そんなんじゃないよー」
身体の前で、大げさに両手を振り、おどけてみせる瑠璃子。
こりゃぁ、間違いない。
否定すれば、するほど。
その男性(ひと)の事、絶対、好きだよね?(ニヤリ)
瑠璃子は、昔の同僚で、彼女が転職してからも、二人で出かける仲である。
今宵も、居酒屋の奥座席を陣取り、仕事の話、恋の話と、会話は尽きない。
彼女は、タレントの小島瑠璃子さんに似ていて、飾らない性格のキュートな女性だ。
(なので、このブログでは、瑠璃子と呼ばせていただく)
明るく、元気で、博識で、ワガママで。
ゆえに、瑠璃子は、男性によくモテる。
そんな瑠璃子が、珍しく、惚れた男性に手をこまねいているように見える。
肉食・瑠璃子はどこへ行ったのかしら?
とぼけても無駄。
瑠璃子、その男性(ひと)の事、好きだよね?
付き合ってるの?
もう、ド直球で聞いてみた。
いつもの瑠璃子なら、恋人が出来たら、すぐに報告してくれるのに。
「え? うーん。好きは好きだし、嫌われてはいないと思うけど……」
何とも、歯切れの悪い返答である。
秘めごと。
瑠璃子がご執心の男性は。
彼女と同じ職場で働く30代の外国人だ。
住居はアメリカだが、長期出張で、何度か日本に来ているうちに、英語の得意な瑠璃子と親しくなったようだ。
二人は、食事を一緒に出掛ける仲だというが、それ以上の進展はナシとの事。(ホントか?)
瑠璃子嬢。
間違いなく、ご不満の様子である。
で。
瑠璃子は、どうしたいの?
前傾姿勢で聞いてみる。
瑠璃子は30代半ばの独身女性・一人っ子である。
交際をスタートさせれば、国際結婚に発展する可能性は、極めて高い。
何杯目かのグラス・ビールを傾けながら、瑠璃子が、一瞬、戸惑いを見せた。
その表情は、悲しいのか、怒っているのか。
あるいは、その両方かもしれない。
好きなんでしょ?
もう一度、優しく問いかけてみた。
次の瞬間。
空気が変わる気配がする。
たまにあるのだ。
時間と空間が、歪むような感覚が。
「奥さんだけならね、アタシ、絶対、負けないと思うんだ」
突然、瑠璃子が、云い放つ。
語尾が、かなり強い。
瑠璃子の顔が。
何だか、能面のようだ。
端麗だが、無表情。
無機質で、命を感じない、冷たい顔。
え?
瑠璃子、急にどうしたの?
思いもしなかった急な告白に、まこの方が驚いてしまう。
瑠璃子、大丈夫?
瑠璃子は、僅かに目線を外しながら、ビールを一息で喉の奥に沈めた。
それから、今度は、少しだけ語尾を柔らかくして、こう告げた。
「でも、子供がまだ小さいみたいで。それが、ちょっとね……」
瑠璃子が好きになった男性は。
家庭のある男だった。
つづく
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