第32柱 私のもこり神様『カニと監督』

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カニと監督。


「カニ・チャーハンが食べたい」


ほーら、始まった。
監督お得意の「ワガママちゃん」の発動だ。


今日の昼食は、駅前の中華飯店から出前をとる予定だ。
メニューに「エビ」チャーハンはあるが、「カニ」チャーハンは存在しない。
監督、ここは一つ、「エビ」で我慢してくださいな。


「『カニカマ』でも『カニモドキ』でも何でもいいんだ。とにかく『カニ』チャーハンにしてくれ!」

監督は、一度言い出したら、絶対、引かない。
何なら「今からカニ漁に行って来い」と云い出しかねない。



困ったな。
この周辺で、チャーハンを出前してくれる店は、中華飯店の他にはない。
その上、忙しいランチの時間帯に、メニューに載っていない品を作って欲しいなんて、申し訳なくて、云える筈もない。



「オマエは押しが足りない。すぐに諦めるな」と監督は云う。

「何でもやってみないと、わからない」と。



まこは、奥ゆかしい日本人なのだ。
監督みたいな野蛮人とは違うのである。
自慢じゃないが、他人に迷惑をかけないように生きてきた。
中華飯店に嫌われるくらいなら、いっそ、カニ漁の求人サイトに応募したいくらいだ。




一度言い出したら、絶対、引かない――。

映画界で最も有名な武勇伝を持つのは、やはり、名匠・黒澤明監督だろう。
『天国と地獄』の撮影中、電車の窓から見える民家が気に入らず、カメラに映り込む2階部分を解体させたのは有名な話だ。(撮影後は、元通りに作り直した)

とはいえ、うちのエロ監督も、負けてはいない。
執着するのは、決して「カニ」だけではないのだ。
根こそぎ調べあげて入念に書きあげるシナリオに、執拗な演出等々。
ワンシーンにかける情熱は凄まじいものがある。
誰が何と云おうと、自分の「ワガママ」を貫き通すのだ。



ふむ。
やってみないと、わからない』か。



では、取り敢えず、やってみよう。
中華飯店に迷惑をかけぬよう、「エビ」チャーハンをオーダー。
すぐさま、近くのコンビニで「カニカマ」を購入した。
そして、到着したチャーハンの「エビ」を「カニカマ」にすり替えてみたのだ。




「監督。カニ・チャーハンでっす!」


















ひどく怒られた。











もこり神様は云う。
傲慢であってはならないが、時に「ワガママ」は魅力になる。

そして、こうも言った。
オマエには、前向きな言葉と笑顔があるだろう?




なるほど。
もこり神様。

すぐさま中華飯店に走り、誠心誠意、状況を説明。
「エビ」チャーハンを「カニ」に変更して貰えるか、恐る恐る、尋ねてみた。


「ワカタヨ~」(東南アジア系のお姉さん)

いとも簡単に快諾。





カニ・チャーハンに限ったことではなく。
民家の解体に限ったことでもなく。

傲慢であってはならないが。
奥ゆかしさは、日本人の良いところではあるが。


やる前から、無理と決めつけてしまうのは、もったいないな。(猛省)



カニとエビと監督に。
悔しいが、大切なことを教えられたまこであった。

つづく

コメント

  1. きょん より:

    ランチの時間、微笑ましくて、楽しく拝見!。
    昨日の残り物を詰めたお弁当も、お陰様で美味しくいただくことができました。

    • まこ まこ より:

      きょんさんへ
      「昨日の残り物」があるという事は、昨日も一杯料理を作ったということですね。
      きょんさん、偉い!