カニと監督。
「カニ・チャーハンが食べたい」
ほーら、始まった。
監督お得意の「ワガママちゃん」の発動だ。
今日の昼食は、駅前の中華飯店から出前をとる予定だ。
メニューに「エビ」チャーハンはあるが、「カニ」チャーハンは存在しない。
監督、ここは一つ、「エビ」で我慢してくださいな。
「『カニカマ』でも『カニモドキ』でも何でもいいんだ。とにかく『カニ』チャーハンにしてくれ!」
監督は、一度言い出したら、絶対、引かない。
何なら「今からカニ漁に行って来い」と云い出しかねない。
困ったな。
この周辺で、チャーハンを出前してくれる店は、中華飯店の他にはない。
その上、忙しいランチの時間帯に、メニューに載っていない品を作って欲しいなんて、申し訳なくて、云える筈もない。
「オマエは押しが足りない。すぐに諦めるな」と監督は云う。
「何でもやってみないと、わからない」と。
まこは、奥ゆかしい日本人なのだ。
監督みたいな野蛮人とは違うのである。
自慢じゃないが、他人に迷惑をかけないように生きてきた。
中華飯店に嫌われるくらいなら、いっそ、カニ漁の求人サイトに応募したいくらいだ。
一度言い出したら、絶対、引かない――。
映画界で最も有名な武勇伝を持つのは、やはり、名匠・黒澤明監督だろう。
『天国と地獄』の撮影中、電車の窓から見える民家が気に入らず、カメラに映り込む2階部分を解体させたのは有名な話だ。(撮影後は、元通りに作り直した)
とはいえ、うちのエロ監督も、負けてはいない。
執着するのは、決して「カニ」だけではないのだ。
根こそぎ調べあげて入念に書きあげるシナリオに、執拗な演出等々。
ワンシーンにかける情熱は凄まじいものがある。
誰が何と云おうと、自分の「ワガママ」を貫き通すのだ。
ふむ。
『やってみないと、わからない』か。
では、取り敢えず、やってみよう。
中華飯店に迷惑をかけぬよう、「エビ」チャーハンをオーダー。
すぐさま、近くのコンビニで「カニカマ」を購入した。
そして、到着したチャーハンの「エビ」を「カニカマ」にすり替えてみたのだ。
「監督。カニ・チャーハンでっす!」
ひどく怒られた。
もこり神様は云う。
傲慢であってはならないが、時に「ワガママ」は魅力になる。
そして、こうも言った。
オマエには、前向きな言葉と笑顔があるだろう?
なるほど。
もこり神様。
すぐさま中華飯店に走り、誠心誠意、状況を説明。
「エビ」チャーハンを「カニ」に変更して貰えるか、恐る恐る、尋ねてみた。
「ワカタヨ~」(東南アジア系のお姉さん)
いとも簡単に快諾。
カニ・チャーハンに限ったことではなく。
民家の解体に限ったことでもなく。
傲慢であってはならないが。
奥ゆかしさは、日本人の良いところではあるが。
やる前から、無理と決めつけてしまうのは、もったいないな。(猛省)
カニとエビと監督に。
悔しいが、大切なことを教えられたまこであった。
つづく
コメント
ランチの時間、微笑ましくて、楽しく拝見!。
昨日の残り物を詰めたお弁当も、お陰様で美味しくいただくことができました。
きょんさんへ
「昨日の残り物」があるという事は、昨日も一杯料理を作ったということですね。
きょんさん、偉い!