卒業試験。
ある晩、ぐっすり寝ていると。
あねご神様(アタシの3代目指導霊)に、遠く遠く、連れ去られる。
「卒業試験だ」
「これからオマエに100の夢を与える」
不思議な夢。
ここはどこだろう?
ヨーロッパのどこかだろうか。
朽ち果てた大きなドーム状の建物の中に、巨大な白い柱が数本見える。
イメージとしては、ローマのパンテオン神殿に近い。
場所どころか、時代もわからない。
そして。
アタシは誰なんだろう?
性別すら、分からない。
これは、夢の中なのだろうか?
それにしても、この臨場感、半端ない。
汗や風、匂いまで感じとれる。
すると、少し離れた柱の陰に、
一人の男が、じっと息を潜めているのが見えた。
兵士だ。
兵士の銃口は、アタシの隣にいる仲間を狙い定めている。
銃に込められた残りの弾は、あと1発。
不思議と、アタシは、それを知っていた。
アタシの手の中には、手榴弾が一つ。
このピンを引き抜いて、あの兵士に投げれば、平和が訪れるのだろうか?
この異質な夢の空間で。
武器は、二つ。
命は三つ。
どうしよう?
どうしよう?
アタシは、手榴弾は投げず、仲間にも渡さなかった。
そして、兵士とは反対の方向に向かい、一人、走った。
取り残された仲間が、遠くで何か叫んでいる。
兵士の銃口の狙いがアタシへと変わる。
背中に重い衝撃が走る。
熱い?
痛い?
理解しがたいチカラに屈し、腰から砕けた。
地面に叩きつけられながら、
アタシは手の中の手榴弾のピンを引き抜き、抱え込む。
よし。
これで、アタシ以外、誰も死なない。
百夢を超えて。
それから、毎晩のように、不思議な夢を見続けた。
1夜1夢の時もあれば、複数の時もあった。
沈みそうな舟に乗り、向こう岸に向かう夢。
デザイナーになり、華やかなドレスを作っている夢。
恋人が伝染病で死に、自分は生き埋めにされる夢。
出雲に向かう神々の行列を見送る美しい稲穂の夢。
その全てが。
自分では経験したことのない内容の夢ばかり。
嬉しかったり、残酷だったり、切なかったり。
不思議な、不思議な、100の物語。
これが、あねご神様の云う「卒業試験」なのだろうか?
無理だ。
色んな感情が渋滞し過ぎて、心がもちそうにない。
正直、今夜は、どんな夢が訪れるのか、寝るのが怖かった。
だけど、「100の感情」から逃げることは出来ない、そう悟っていた。
そして。
ヘトヘトになりながらも、
とうとう、百夢を超えた頃、
あねご神様がゆるりとやって来て、こう告げた。
「おめでとう。卒業だ」
つづく
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