出逢い。
その頃。
映画界で2度目の転職を果たしてから、数年が経過していた。
仕事量も多く、変わった人も多い業界だが、
花子先輩やあしながさんなど同僚にも恵まれ、
毎日が新鮮で、充実した日々を過ごしていた。
(花子先輩は第43柱『一匹狼』、あしながさんは第50柱『あしながおじさんの女房』を参照)
この頃の上司が、よく云っていた。
「人生は、全て、人との出逢いで決まるんだ」
「才能や努力ではない。誰と出逢ったかということだ」と。
勿論、才能や努力も必要だと思うし。
心の熱量や、環境、運なんかも関わってくるんじゃないかな、とは思うけど。
確かに。
たった一人の人間と出逢い、人生が変わることもある。
誰と出逢うか。
誰と出逢えるか。
誰と出逢ってしまったのか。
誰と出逢えるように、自分の人生を仕向けていけるのか。
出逢いは運命なのか?
それとも、自分で手繰り寄せているのだろうか?
生まれる前の記憶。
たった一人の人間と出逢い、運命が変わることがあるのであれば。
まこの人生を決定づけた最初の出逢いは、
やはり「母」ではないか。
愚かな話だと笑う人もいるだろうが。
まこには、生まれる前の記憶がある。
いや、これは夢なのか、妄想なのか。
もはや、答え合わせが出来ないでいるのだが。
生まれる遥か前から。
まこは、空を漂っていた。
急発進、猛スピードで空を飛ぶ。
方向を自分で定めることは出来ない。
凄いスピードで飛んでは止まり、
止まっては飛ぶを繰り返していた。
下を見ると、
河や道路、ビルや民家の屋根が見える。
「緑」の屋根。
珍しいな。
ある日、ふと、こう思った。
お役目が決まった。
「下」に行かなくてはならない、と。
しかし、「下」に行くには、人の協力がいることを、不思議と知っている。
すると、神か、菩薩か、人なのか。
白くふっくらとした美しい女性が、雲に乗って浮かんでいるのに気づいた。
周囲には、少し離れて、何人かの女性が浮かんでいるようだ。
が、まこは迷わず、その女性の元へと、一直線に向かう。
「スミマセン。身体をお借りしてもいいですか?」
女性は笑顔で頷いた。
すかさず、彼女の中に入る。
次の瞬間。
もの凄いスピードで、彼女と一緒に、垂直に落下した。
あまりのスピードに、一瞬、怖いと感じたが、
「緑」の屋根が見えた時には、すこし安堵した。
それから暫くして。
闇の中、
曲がったトンネルを滑り出て、
眩(まばゆ)いばかりの光が見えた時には、
驚きと恐怖と感動で、
声を上げたのを覚えている。
あの時、雲に乗って浮かんでいたのが、
まこに身体を貸してくれたのが、
最初に出逢ってくれたのが、
「母」であることに、今でも感謝している。
そして、小学生くらいになって気づいたが。
まこが生まれた頃の、我が家の屋根は、
珍しい、
「緑」の屋根瓦だった。
つづく
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