霊能者に会いに。
昔、北関東のある里で。
凄い霊能者に出逢ったことがある。
人呼んで「お不動様(おふどうさま)」。
となりの里に住む、霊媒師を生業(なりわい)にする方である。
それは、突然、母を事故で亡くした頃のことだ。
(詳しくは、第9柱 私の母さん神様『母の死』を参照)
何かに、縋(すが)りたいような。
何かに、怒りたいような。
そんな時、信頼している友人に紹介され。
「お不動様」と呼ばれるプロの霊能者に会いに行ったのだ。
その霊能者は、お不動様を自分に降ろし、相談者と話をする能力を持つとのこと。
例え、イカサマでも構わない。
何でもいいから、母のことが知りたかった。
野を越え、川を越え。
車で北関東をひた走る。
到着すると、そこはフツーの一軒家。
「霊能者の館(やかた)」のような趣(おもむき)は、一つもない。
しかし、重厚で広い本堂のような部屋に通されると。
ピリリとした空気感。
奥座には、不動明王像が祀ってあるのかな?
寒々と感じる板の間で、友人と二人、背筋をピンと伸ばし「正座」で待つ。
緊張感と得体のしれない恐怖感も混じり合い。
少しだけ身体が震えた。
お不動様。
「お不動様」とは不動明王のことである。
不動明王は、右手に心のあらゆる迷いを断ち切る利剣を、左手には物事を正しい方へ導くための羂索(けんさく)という縄を持ち、堅固な御心を表す磐石(ばんじゃく)という大きな岩にお座りになり、あらゆる障害を焼き尽くす火焔(かえん)を背負っている。
顔が怖い?
戦いの神様?
いやいや。
実際は、悪を断ち切り、煩悩(ぼんのう)を焼き尽くし。
人々の願いを浄化し、救ってくれる、優しい仏様なのだ。
その怒りの表情は、全ての人を救うという御心の決意を現した姿だとされている。
どうか。
ほんの少しでも、心を軽くしてください。
母を失った悲しみを。
どうか。
どうか。
凄い霊能者。
早くも「正座」が限界に迫る頃。
霊能者の若い女性と、その通訳の役割を果たす母親が現れた。
(以下、このブログでは、霊能者さんの事を「お不動様」と呼ばせていただく)
「では、始めましょうか」
挨拶もそこそこに。
派手なパフォーマンスもなく。
住所と名前を書いた紙だけを渡すと。
視えない「何か」を身体の中に沈め、語り始めるお不動様。
どうせ当たる筈はない。
少し意地悪な気持ちで訪れていたのだが。
すぐに、その歪んだ気持ちを。
180度、くるりと変えられてしまうこととなる。
つづく
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