あんた、本当に神様?
最初にきっぱりと云っておくが。
私のおじさん神様は、たいした仕事をしない。
宝くじを当ててくれるわけでもないし。
イケメン彼氏との出会いを演出してくれるわけでもない。
実に、呑気(のんき)な神様(指導霊)である。
二十代初めの頃、恐ろしい体験をした。
夕暮れのひと気のない共同駐車場で、見知らぬ男に引きづり込まれそうになったのだ。
男は、おそらく駅周辺からつけてきたのであろう。
背後から、自転車に乗って、静かにその時を狙っていたのである。
茜色の空。
駐車場には人影はまったくない。
主のいない車が数台、置き去りにされているだけだ。
アタシは、一人、駐車場に向かい歩いていた。
男は、獲物を物色するようにしながら、アタシをゆっくりと自転車で追い抜いた。
そして、急に、クルリと方向転換し、自転車を乗り捨て、アタシの前でニヤリと嗤ったのだ。
やばい。
この男、悪魔のような顔をしている。
黒いモノを発している!
そう思ったが、声も出なければ、身体も動かない。
そもそも声を挙げたところで、北関東には、人も家も、圧倒的に少ないのだ。
絶対絶命。
不思議とこういう時ってスローモーションになるんだな、なんて変な事を考えながら、男の手がゆっくりと伸びてくるのを、ただジッと見つめていた。
プーーーーーーーーーーーーーーーッ!
突然、けたたましいクラクションが鳴り響いた。
誰かいたの?
プッ、プッ、プーーーーーッ!!!!
男はびっくりして、反射的に身体を跳ね除けた。
そして、投げ捨てたはずの自転車にまたがり、一目散に走り去ったのだ。
男がいなくなってから、白い車がゆるりと動き出す。
人がいたんだ。
恐怖と安堵が入りまじり、涙が溢れ出す。
とにかく、お礼を。
深々と頭を下げた。
そして、頭を上げた時、走り去る車の主の「顔」をとらえた。
え? のっぺらぼう?!
顔がない。
例えて言えば、白いゴム人間。
運転席に見えるのは人型なのだが、顔には目や鼻や口がないのだ。
夕暮れの中だし、逆光かな?
取り乱しているので、見間違えたのかもしれないし。
助けてくれた人の顔を見ようと、目を凝らして、もう一度見つめた。
やっぱ、のっぺらぼう……。
おったまげー!
しかも、かなりのモチモチ、白い肌だ。
いや、顔があろうが、なかろうが、何でもいいのだ。
救って貰えたのだから。
ふわふわと走り去る車に敬礼。
そして、のっぺらぼうさんに合掌。
助けてくれて、本当にありがとう。
いや、感謝の意を込めて、「のっぺらぼう神様」と呼ばせていただこう。
ところでね。
おじさん神様、男がつけて来てるの、教えてよ! あんた、神様でしょ! と思うのだが、こういう事は教えてくれない。
「頼るな。自分の五感をフルに使え。そして、第六感を磨け」と。
実に役立たずな神様である。(怒)
しかも、「のっぺらぼうは、ワシの知り合いだ」とのたまった。
ホントか? (←疑いの眼差し)
ちなみに、おじさん神様は嘘をつく。
中学生の時に、ずっと片思いをしていたM君に「大丈夫だから、告白しろ」とそそのかしてきた。
撃沈だった。
おじさん神様の嘘つきー!
つづく
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鳥肌!