パッポン・ナイト・マーケット
バンコクの夜は猥雑だ。
ネオン。雑踏。多国籍。
粘り気のある夜の中、狭い路地に人は溢れ、笑い、乱舞する。
ひときわ賑やかな「パッポン・ナイト・マーケット」へと進む。
飲食店、マッサージ店、土産店などが立ち並ぶバンコク随一の夜の市場だ。
毎晩、観光客や地元の人でごった返し、異様な熱気とエネルギーを放っている。
土産物の露店は、眺めているだけで心躍る。
タイ雑貨から装飾品、この日はなんと入れ歯まで、何でも揃っていた。
基本、値札がついてないので、値切り交渉は必須だ。
簡単に半額にしてくれるのはご愛敬。
怪しすぎるが、怒らず、露店の醍醐味を味わいながら、ゆるりと楽しみたい。
「パッポン・ナイト・マーケット」 周辺には、怪しげな「ゴーゴーバー」が立ち並んでいる。
「ゴーゴーバー」 とは、露出度の高い女性がステージ上で踊っている飲み屋のことだ。
最近では、「ゴーゴーボーイ」と呼ばれるセクシーな男性が躍る店もあるのだが、アタシのビビリセンサーが鳴り響き、逃げるようにその場から立ち去る。
喧騒の中、何だか心細くなり、ひとり、街に佇む。
性別不明の美しいお姉さんと外国人が腕を組み、店の中に消えてゆく。
その横で、海賊版のDVDを手にする少年たち。
いつもなら目を背けたくなる光景も、ここではこれが日常なのだ。
大音量の音楽を垂れ流す店々。
心臓の鼓動のような重低音のビートを刻む。
ドン、ドン、ドン……。
まるで獣の体内にいるようだ。
鋭いキバで咀嚼され、唾液のように流れる汗を拭う。
複雑に伸びる腸のような路地。
更に、奥に広がる子宮のような歓楽街。
身体の隅々にまで、バンコクの暑い血流が流れ込む。
ふと気づくと、露天商の男性が、片言の日本語を投げかけてきた。
「日本人? パンツ買ってぇ。高くないよぉ~」
スケスケの下着を指差し、極上の笑顔で営業するお兄さん。
「パンツー、パンツゥー、高くなぁ~い」
嗚呼。
せっかくの熱帯の夜が、台無しだ!
つづく
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