神様ルール。
あれから、母は、丑三つ時(うしみつどき:午前2時)にパタリと現れなくなった。
母の不在(死)に慣れぬまま、時を過ごしていたが。
五十日祭(仏教でいう四十九日)を過ぎた頃、母は次なる「不思議」を運んできたんだ。
ちょいちょい「夢枕に立つ」のである。
夢うつつ。
ぼんやりとした眠りを彷徨っていると、
夢の中に、ひょこりと母が現れる。
それは、いつも突然の来訪だ。
こちらが会いたいと願っている時とは、限らない。
心から叫んでも、会いに来てはくれないんだ。
「あっちにも色々決まりがあるの。結構、忙しいのよ」と母は云う。
母曰く、あちらの世界の「神様ルール」は、こうだ。
・この世に来るのに、申請が必要。申請に3日位かかる。
・相手が、夢うつつやボーっとしている時にしか、出てはいけない。
・母は、こちらの世界では、一言しか話してはならない。
・母は、あちらの世界の事を、ペラペラと喋ってはいけない。
そして、もう一つ。
夢枕に登場する母は、決まってこうだ。
亡くなった時より、ずっと、若く、美しい。
それ。
ズルくない?
母の誕生日。
母が亡くなってから、初めて迎える「母の誕生日」の日のことだ。
母は、いつものようにヒョコリと夢枕に立った。
両手に大きな苺ケーキを抱え、満面の笑みを浮かべている。
やや、これは!
ケーキを催促しに来たのかな?
ごめんね。
そう云えば、亡くなってから、大好きなケーキ、お供えしてなかったね。
何となくだが。
母の死後、ケーキとか、誕生日とか、そういったハッピーオーラ満載のモノは、意識的に排除してきたんだ。
勿論、アタシも、楽しくケーキを食すことなど、ご法度だった。
「喪に服す」とは、そういうことだと思っていたから。
だけど、今日は特別。
ケーキを買いに走るぞ。
母の大好きな苺ケーキを、奮発してホールで購入。
そして、しっかりとお供えした後、父と二人、少しづつケーキを切り分けて食べた。
甘い。
そして、うまい。
何故だろう?
甘いモノの魔力は、格別だ。
人を惑わせ、惹きつける。
チカラになり、栄養になり、そして、幸せな気分になれるのだ。
そうか。
夢枕の母は、自分のために催促してたのじゃなくて。
父とアタシが元気になれるよう、ケーキを運んで来てくれたんだ。
抱えていた苺ケーキは、きっと、私たちへのプレゼントだったのだ。
しっかし、あちらの世界では、カロリーとかも気にならないんだな。
それはそれで、ちょっと羨ましい。
つづく
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