強くなれ。
あれから、すぐに「退職願」を書いた。
会社を辞めるつもりなど、微塵もない。
だいいち、本当に辞めるべきなのは、ハラスメントをしているアク部長の方だ。
退職届は、お守りだ。
次に何かあったら、いつだって、アク部長の鼻先に叩きつけてやる。
アク部長の小さな嫌がらせは、あれから暫く続いた。
挨拶をしても、返事をしてくれない。
アタシを社内の打ち合わせから外す。
必要な連絡をアタシにだけしない、などなど。
全てが子供じみている。
極めて、腹立たしい。
だけど、アタシは「敢えて」公明正大に振る舞った。
礼儀正しい態度で接し、報告・連絡・相談を徹底して行うようにした。
呪うことより、正しく振る舞うことで、器の小さなアク部長に勝つ気がしたからだ。
本音を云うと。
今でも、アク部長に名前を呼ばれるだけで、ビクリとするのだが。
アク部長にも、
自分にも、
今、立ち向かわなければ、負ける気がする。
畜生の言動なんかに、惑わされるな。
アタシはアタシの仕事を、誠実にするまでだ。
強く、強く、強くなれ!
転換。
暫くすると、アク部長は、アタシに対する全ての嫌がらせを解いた。
そりゃぁ、そうだ。
僭越ながら、アク部長は、アタシ抜きで、仕事が進められないのだから。
それからアタシは、偽りの平和の中で、
アク部長を呪うことも、
許すことも出来ずにいたが。
それでも、一つだけ、
アク部長の「良いトコロ」を見つけてみることにした。
アク部長は。
業界の権力者や、政治家、官庁には、媚びを売ってくれる。
それは、もう、頭を擦りつけるように、平(ひら)に、平に。
そして、それは、
媚びを売れないアタシには、到底出来ない言動であり、
誰かがやってくれる事により、世の中が円滑に回る事もありそうだ。
一つでも「ああ、アタシには出来ないことを、やってくれているんだな」と思えると、
その存在価値に感謝さえしてしまう。
そして、そんな矢先、
本当に久しぶりに、
アタシの指導霊である「あねご神様」がひょっこり現れた。
「そろそろ、卒業ね」
そう云って、ニコリと笑った。
つづく
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