畜生。
全治2カ月。
肉離れの中では、結構、重症らしい。
だけど、病院で、松葉づえを2本借りられた。
大丈夫、これがアタシの足になってくれる。
翌朝、会社へ出社し、まずは、経理の慶子さんや仕事を変わってくれた同僚たちへ詫びた。
皆、色んな思いがあるだろうに、「気にするな」と云ってくれた。
そして、遅れて出社してきたアク部長へも詫びた。
こちらは、正直、何に対して詫びなくてはならないのか、わからないが。
「ご迷惑をおかけして、スミマセンでした」
返事はない。
代わりに、アタシの包帯姿と松葉づえを、上から下から、じっと眺め、
強い口調でこう言い放った。
「医者の診断書を出せ!」
もともと提出するつもりだけど。
この男は、この期に及んで、何か疑っているのだろうか?
その日から。
リハビリ以外は、松葉づえを使い、毎日、会社へ行った。
皆、何かと手助けしてくれようとしたけれど。
誰かを頼ると、アク部長が、また、何を言い出すか分からない。
自分の指示以外で部下が動くと、どうやらプライドが傷つくらしい。
皆に、迷惑をかけるわけにはいかない。
畜生。
負けるもんか。
アク部長。
負けるもんか。
畜生。畜生。畜生。
ぐるぐる、ぐるぐる。
忙しい時は良かった。
目の前の仕事に、喰らいつくしかなかったからだ。
だけど、足の怪我も回復に向かい、仕事も落ち着いてくると。
ぐるぐる、ぐるぐる。
色んなことを考えてしまう。
アタシは、そんなに悪いことしたのかな?
怒鳴られ、叱責されるようなことなのかな?
でも、経理の慶子さんには、悪いコトしたな。
あの時、どうすれば、よかったのかな?
ぐるぐる、ぐるぐる。
相変わらず、アク部長は、
部下や女性や、業者の人など「人を選んで」怒鳴り散らしている。
ほら、今日は。
あの子が、アク部長に、心を殺されている。
コロナも猛威を振るい、友人と会う機会も減ってしまった。
ぐるぐる、ぐるぐる。
眩暈(めまい)に似た哀しみや後悔が。
ぐるぐる、ぐるぐる。
心に深く広がっていった。
つづく
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