SOS
アタシが、足を怪我しようが。
アク部長が、逃げてしまおうが。
目の前の仕事が消えてなくなるわけではない。
誰かがやらなければ、それは結局、後でアタシの首を絞めあげるだけだ。
よし。やるしかない!
まずは、最も信頼している経理の慶子さんへSOS。
彼女は、週1のアルバイト契約にも関わらず、直近の仕事を、快く引き受けてくれた。
が、問題なのは、明日の○○会社(大手映画会社)○○社長との約束だ。
これだけは、アク部長の「下」の役職にあたる次長に相談しよう。
「今日、これから病院に行き、松葉づえを借りてきて、明日は出社するつもりです」
「ただ、行ってみないと足の状態もわかりませんので、万が一、松葉づえを借りられなかった時だけ、明日の○○社長との面会を変わっていただけませんか?」
次長も、快く話を聞いてくれたのだが。
それを、まったく快く思っていない人物が一人いた。
アク部長だ。
痛い。
「オマエが次長に仕事を頼むなんて、100年早いんだ!」
「オマエのやっている仕事なんて、ただのルーティーンワークだろ? そうだろっ!」
「子供のお使いみたいなことを、次長にやらせるなんて!」
「バイトにやらせろ! バイトに!」
「次長に云う前に、俺に云え!」
いや。
真っ先にアク部長に相談したら、「俺は知らない」と、電話、切っちゃいましたよね?
こちらが口を挟めば、更に増幅した怒号を浴びせられる。
「黙れ! いいから聞けよ! バカヤロー!」
電話での執拗な叱責が、永遠と続く。
耳も、足も、心も、全てが痛い。
そして。
何より、心苦しいのは。
アク部長は、経理の慶子さんまで、皆の前で罵倒したそうだ。
「何でオマエがやらないんだ!」
「能なしめ!」
どうしよう。
どうしよう。
慶子さんまで、巻き込んでしまった。
ごめんなさい。
ごめんなさい。
全部、アタシのせいだ。
だらんと動かない右足と同じように。
頭も心も、停止してしまう。
もはや。
アク部長の口汚い叱責に対し、
「申し訳ございません」
「スミマセン」
「仰る通りです」
以外の言葉は、アタシの口から出てこない。
どうやら。
心を殺されちまったようだ。
つづく
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