恵み与えたまえ
バンコクは比較的、治安の良い街だ。
敬謙な仏教国であり、マナー、礼儀作法も美しい。
王室を敬い、困っている人に施し(ほどこし)を与えるのは当たり前なのだ。
ただし、悪名高きは一部のタクシー&トゥクトゥク(三輪タクシー)だ。
特に、外国人が集まる観光地にたむろするタクシーには要注意。
メーターを使わず法外な値段を要求したり、勝手に高額レストランや宝石店に連れて行ってしまう輩がいるのだ。
バンコク2日目の夕方。
チャオプラヤー川付近の3大寺院観光後、猛烈なスコールに遭遇。
定期船は、雨が止むまでストップ。
雨宿り出来るような場所も見当たらない。
滝のような雨に直接打たれ、人としての尊厳を失いかけているアタシ。
カモン、カモンと手招きするタクシーのオヤジ。
このシチュエーション、絶対、ぼったぐりタクシーに違いない。
案の定、相場の3倍をふっかけられた。
しかし、悔しいが、一刻も早くホテルに帰りたいのも、また事実。
交渉の末、2倍の料金で手を打つことにしたのだが。
車内に乗り込むと、席の目の前に、
「観光客は50バーツを別に払うこと」と書かれたボードが掲げてあるではないか。
くそオヤジめ。
運転席から後部座席をちらりと見て、ニヤリと嗤うオヤジ。
欠けた前歯が、ひどく恨めしい。
急発進で走り出すタクシー。
負けるものか。
さっそく、片言の英語でバトルが始まった。
「観光客は更に50バーツ払え!」
「NO!」
「タイフード、食べるか?」
「NO!」
「宝石、欲しいか?」
「NO!」
「タイマッサージするか?」
「NO!」
「BOYも買えるぞ」
「シバくぞ! オヤジ!」(←これは、日本語)
しばしの沈黙の後、何やらタイ語で文句を言うオヤジ。
ひとしきり文句を言うと諦めたのか、今度は世間話を始めた。
「お前は何しにタイに来たんだ?」
「観光だ」
「フレンドとタイに着たのか?」
「一人だ」
「結婚はしてるのか?」
「してない」
「ベイビーはいるのか?」
「いない」
「何だ、お前は、毎晩一人で寝てるのか? ぷはははー」
オヤジ、爆笑である。
どうやら、「非常に可哀想なコ」と思われたらしく、そこから楽しくお喋りがスタート。
バンコクの渋滞にも巻き込まれたが、途中、誇らしげに家族写真まで見せてくれた。
奥さんと元気な少年二人。
いい写真である。
そして、最後には、哀れみの瞳で見つめられ、
「お前はアン・ハッピーだから、半額でいい」とタイ人価格にしてくれた。
勿論、観光客用の50バーツも免除である。
とても有り難いのだが。
ぼったぐりタクシーにまで施し(ほどこし)を受けるアタシ。
微妙。
つづく
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