プロデューサー・ガガ。
饐(す)えた臭いの地下室で、一人、立ち尽くす。
出勤1日目の会社で、コバエの洗礼を受けたのは、初めてだ。
「いやぁ、わりぃ、わりぃ」
悪いとは微塵も思っていない足取りで、見覚えのある顔が近づいてきた。
数日前に、アタシの面接を担当したプロデューサーである。
「コイツらの繁殖能力って、すげぇよな」
感心したように、コバエの大群を見つめている。
このプロデューサー、口は悪いが、れっきとした女性である。
年齢は推定40代、身長は150cmと小柄だが、ダイナマイト・ボディの持ち主だ。
はっきりとした顔立ちで、祖母がフランス人(クォーター)らしいが、真偽のほどは不明。
無駄に派手なブランド品に身を包み、どことなくだが、『レディー・ガガ』に似ている。
(なので、このブログでは、彼女を「ガガ」と呼ぶせていただく)
「ガガさん。取り敢えず、事務所を掃除していいですか?」
こんな所じゃ仕事は出来ない、いや、息も出来ない。
「ああ。ゴム手袋ならあるぞ。洗剤はないけどな」
ガガさんが、変色してショボショボになった謎の物体を差し出した。
おそらく、道端に落ちている雑巾の方が、100倍、清潔に違いない。
なるほど、ガガさん。
だから、面接はここ(事務所)じゃなく、奮発してホテルのレストランでやったのね?
ある意味、正解。
巨匠、登場。
ほどなくして、監督がご出勤。
初めてのご対面だ。
監督は70代の男性で、世界の名だたる映画祭でも受賞するほどの実力を持つ、日本を代表する映画監督の一人だ。
アタシが生まれる前から映画を撮り続け、映画界では「神」と呼ばれる大巨匠である。
「今日から、宜しくお願いいたしまっす!」
ドキドキしながらも、元気一杯、挨拶をした。
上から下まで嘗め回すような視線。
監督は、ニコリともしない。
「で、何が出来るの?」
声色は優しいが、重さを感じる。
何か、見透かされている感じ。
「何でもやります!」
アタシは映画のことなど、何一つ分からないド新人だ。
一生懸命やる以外、道はない。
「『何でもやります』は、何も出来ないということだな」
フフと鼻で嗤う監督。
もしかして、やばいトコロに就職しちゃったのかしら?
「オマエは、今、運命からチャレンジを申し込まれている。さて、どうする?」
もこり神様まで、ニヤリと嗤う。
負けたくない。
いや、勝つも負けるも、
自分はまだ、何一つ戦ってすらいない。
まずは、コバエとの激闘だ。
つづく
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