職場での憂鬱。
父や母さん神様、たま神様にも見守られ、自分の人生を走り始めた。
東京での一人暮らしは楽ではないが、「自由」という何より得がたい宝を得た。
仕事はキツかったが、毎日、楽しく充実していた。
が、いつの時代も苦悩させられるのは、それに伴う人間関係だ。
仕事そのものよりも、人間関係のストレスで疲れ果ててしまう事もある。
その頃のアタシは、泥中でもがいている気分だった。
信頼できる親友に仕事を依頼し、同じ職場で働き始めた事をきっかけに、友情関係にヒビが入ってしまったからだ。
友人だからこそ、遠慮がなくなる。
友人だからこそ、逆に変な気を使ってしまう。
悪魔のような無限ループ。
親友なのに、どうしてわかってくれないの?
信じていたのに。
信じていたのに。
互いの正義を振りかざし、無限に傷つけ合ってしまう。
どうして、こんな風になっちゃったの?
本当は、大好きなのに。
とても大切にしたいのに。
泥沼に足をとられ、少しも前へ進めない。
助けて! 母さん神様ぁ!
苗字の妙(みょう)。
しゃらしゃら、しゃらん♪
神社の鈴の音と共に、亡くなった母が夢枕に立った。
夜闇の中。
唄のような、呪文のような囁(ささや)きが聞こえてきた。
苗字のチカラ
不思議なチカラ
言霊(ことだま)があるように、文字霊(もじだま)もあるの
苗字のチカラ
不思議なチカラ
苗字に宿るエネルギー、色んな影響与えるの
しゃらしゃら、しゃらん♪
もう一度、神社の鈴が鳴り響き、囁きはぴたりと止まる。
そして、母は少し神妙な顔をしてこう告げた。
「人は苗字を選んで生まれてくるの。漢字にも、全て意味があるのよ」
ほけっと聞いているアタシに、母は諭すように続けた。
「いい? アナタの苗字は、水を意味するの。『関』は水の流れを止めるのよ」
母の言葉にハッとする。
アタシの苗字(本名)は、「激しい水の流れ」を意味する漢字だ。
そして、仲たがいをしてしまった親友の苗字には、「関」という漢字が含まれていたからだ。
つまり、彼女とアタシは、互いに反発しあう運命なの?
でも、今までだって、ずっと仲良くやってきたのに……。
不思議な想いとともに、過去が蘇る。
彼女と仲良くなったのは、彼女がペンネーム(本名とは違う名前)で執筆活動を始めてからだ。
そして、今は、「関」の漢字を持つ本名で、アタシの仕事を手伝ってくれている。
そう云えば、過去の知り合いの中にも、「関」や「堀」のように、水の流れを止める漢字を持つ人がいたが、なんだかうまくいかず、結局、会わなくなってしまったな。
もしかしたら、漢字のパワーも影響していたのかな?
うむむと考え込むアタシに、母が「おまけ」のひと言を与えてくれた。
「覚えておいて。『関』は敵から守るとか、関わる・繋がりを持つという意味もあるの。優しい人なのよ。大丈夫。互いに必要であれば、きっといつかまた笑顔で再会できるわ」
母の言葉を聞いて、彼女とは、思い切って、一度、距離を置くことにした。
が、数年の後、
母の云う通り、彼女とは笑顔で再会し、交友を復活することとなる。
そのきっかけは、やはり、優しい彼女がアタシに与えてくれた。
そして、それは、彼女がペンネームを使い、執筆活動を再開した頃からだった。
勿論、苗字だけで、人との相性が全て決まるわけではない。
ただ、自分なりに努力しても、何故か上手くいかない仲や、逆に、何故だか良い影響を与え合う仲がいる時に、少しだけ思い出して欲しい。
言霊があるように、苗字(漢字)にも魂が宿っている事を。
♪苗字のチカラ
不思議なチカラ
苗字に宿るエネルギー、色んな影響与えるの♪
つづく
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