理想の上司。
以前の上司は、理想の上司だった。
彼は、皆より1時間半前に出社し、黙々と自分の仕事を片付けていた。
就業時間内は「部下の為に尽くす」と云って、報告・連絡・相談を「いつでも」聞いてくれた。
そして、毎日、定時には会社を出て、大好きな映画鑑賞を楽しんでいたようだ。
プライベートも、なかなかチャーミングな人で。
社内の飲み会は、いつも楽しく、盛り上がり。
帰りは、程よく酔っぱらい、欽ちゃん走りで去って行く。
そんな上司の口癖は、「ボクは妻を愛しているんだ」。
奥様からは適当にあしらわれているようだが(笑)。
町内会の草むしりにも積極的に参加し、
おでこから下だけ、日焼けして会社に現れることもあった。
業界のTOP陣からの信頼も厚く、部下からも慕われ、チャーミングな性格で。
実に、尊敬できる、理想の上司であった。
楽しい日々は続かない。
ちっぽけな自分ではあるが。
好きだった映画の仕事にも携われ。
上司にも、同僚にも恵まれ。
一人暮らしの生活も、少しづつ安定してきて。
やりがいも感じ、充実した日々を送っていた。
その頃は。
亡き母も、安心していたのか、夢の中で、よく唄っていた。
たくさんの人達が関わって。
しゃらん、しゃらん。
あなたの人生を紡いでる。
しゃらん、しゃらん。
強い糸を縒(よ)り合わせると、きっと絆になるでしょう。
だけど。
どうしてだろう?
楽しい日々は、そう長くは続かないものである。
理想の上司は、大手映画会社の取締役に抜擢され、突然、ここを去ることとなった。
そして、とうとう。
あの「悪魔」がやってくることとなる。
づづく
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