母の願い。
「今のところない」
お不動様が、シラと告げる。
「して欲しいことは、特にない、と云っている」
え? そんな。
お母さん!
私にして欲しいこと。
なにか、あるでしょ???
例えば……。
少し考え込んでから。
心の奥に引っかかっていたあの質問を。
思い切って、口に出してみた。
私が、母(の魂)を生んであげることは出来ますか?
生まれ変わり。
そんなの迷信だと、笑う人もいるかもしれないが。
もし、自分が母(の魂)をこの世に産み落としてあげることが出来るのならば。
母は、今度こそ、家や家族に縛られることなく。
好きなように生きられるかもしれない。
生まれ変わって、もう一度、人生をやり直して欲しいのだ。
「やめた方がいい」
お不動様が、突き放すように言い放つ。
「オマエの母は、そんなこと望んでいない」
お不動様は、まこ達には背を向け、前方高座に座っている。
怒っているのか、呆れているのか。
その表情は伺いしれない。
「魂にとっては、あちらの世界の方が幸せだ。なにも、この世に引き摺り戻すことはない」
この世なんて。
あちらの世界に比べれば、地獄みたいなものなのか?
「それに……」
今度は少しだけ温かみを帯びた言葉で、お不動様が告げた。
「オマエの母は、幸せだったと云っている」
生まれ変わり伝説。
お不動様曰く。
人の魂は、約300年に1度、生まれ変わるとのこと。
何度も生まれ変わった人もいるが、今生(こんじょう)で初めて生まれてきた人もいるらしい。
前世で深く関わった人は、今生でも関わる可能性が高く。
前世で父親だった人が、今生は息子に。
前世で愛した相手が、今生は良きライバルになることもあるようで。
そうやって関わり続け、互いの魂を高め合っていくらしい。
また、前世で刃傷沙汰(にんじょうざた)を起こした人は、今生では、逆に、刃物で切り付けられることもあるそうだ。
それは、手術、事故、事件など様々な形となって見舞われる。
自分(の魂)のした事は。
例え生まれ変わっても、責任を持たなければならないのである。
更に、お不動様が教えてくれた。
前世で死ぬ間際に、強く思った(願った)ことは。
そのまま今生に持ってきているそうだ。
例えば。
「また、この人と一緒にいたい」
「こんな貧乏はイヤだ」
などなど。
そして、それこそが、今生の「生きるテーマ」となることもあるそうだ。
ちなみに、お不動様に、まこの前世も視て貰ったが。
今生で、4回目の生まれ変わり。
3回目の死に際で思ったことは、「次は、自分の思い通りに生きたい」とのこと。
ふむ。
まさしく、今生の「生きるテーマ」と云われても、頷けるな。
今生、現世、この人生。
ただ、ひたすらに。
自分の思い通りに生きてみたい。
となりの里のお不動様から伝授された「生まれ変わり伝説」。
誰も、答え合わせの出来ない内容ではあるが。
信じるか信じないかは、アナタ次第である。
つづく
コメント