第18柱 たま神参上!『初めての家族』

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初めての家族。

吾輩はネコだ。
天涯孤独のオス猫である。

親とはぐれたのか、捨てられたのか。
実際のところ、よく覚えていない。
気付いたら、ひとりぽっち、ヨレヨレと北関東のあぜ道を彷徨(さまよ)っていたんだ。


ある日、オレは、小さな家に辿り着いた。
寒い寒い夜だった。
オレは酷く腹が減っていて、無様(ぶざま)な自分を呪いながら、みゃあみゃあ、家の前で命乞いをしたんだ。

そしたらさ、優しいママさんが現れ、オレの頭をそっとなで、ミルクをくれたんだ。
五臓六腑に染み渡るとは、このことニャ。
ホントに、ホントに、嬉しかったな。



ところが、ママさんのそばにいた「ちび助」が、食事中のオレの腹を、乱暴に抱きしめてきやがった。


やめろニャー!!


思わず、爪を立てちまったよ。


ちび助は、びっくりして、紅葉(もみじ)のような掌(てのひら)を、ぴょこんと引っ込めた。
怖かったのか、悲しかったのか、とにかく不思議な眼差しで、オレを黙って見つめてたな。


ご飯の後は、ママさんが、温かい家に招き入れてくれると思ったが、猫生(人生)そんなに甘くはなかった。
パパさんが、「ダメだ、追い払え」と怒ったからだ。




いいさ、また、ひとりぽっちに戻るだけだ。




踵(きびす)を返し、立ち去ろうとした瞬間、隅っこに隠れていた筈のちび助が、突然、わーわー泣き出したんだ。


「まこが面倒みるから! お家に入れてあげて! 入れてあげてぇ!」



奇跡が起こった。

根負けしたパパさんが、困った顔で、オレを家に招き入れてくれたんだ。
涙と鼻水だらけのちび助の顔が、途端に、ぱぁーっと明るくなった。




ごめんな、ちび助。
さっきは、傷つけちまったのにな。




ちび助は、嬉しそうに、またもや、ぎゅうぎゅうと抱きしめてきた。


や、やめろニャぁ~~。



その日、初めて、オレにも家族が出来たのさ。

なめんなよ!


オレの名前は「たま」に決まった。
え? 古くさいって?
オレは結構、気に入っているんだ。
だって、音の響きが、すっごく優しいだろ?


ちび助の名前は、まこ。
4月から小学生になる女の子だ。

出逢った頃のまこは、オレの鼻の頭を突ついてきたり、まぁるい背中をぎゅうぎゅう抱きしめてきたり、ホント、うざいヤツだったよ。

だけど、オレが「いやだ、いやだ」と逃げ回っていたら、何かを「感じとった」のか、その後、ぴたりと追いかけてこなくなった。
代わりに、隣でゴロンと寝ころがり、黙ってにこにこオレを見てるんだ。


そう。
この子は、少し変わったところがあるんだ。

鏡の中の自分とお話ししたり。
宙を見つめて、笑ったり。
突然、飛び起きて、闇の中を見つめたり。


人間の友達とも、話が合わない時があるようだ。

「皆、ホントに見えてないの?」
「どうして聞こえないの?」
「嘘なんか、言ってないもん!」

そのたびに、悲しい顔をして帰ってきて、ママさんを困らせてたな。




それはさ。
オマエが、皆には見えない「念」や「エネルギー」を拾っちゃうからだろ?
誰よりも敏感に感じとっちまうからな。
だから、人といると、心も身体も疲れちゃうんだよな?
それで、誰よりも長く深く、寝てるんだろ?


勿論、オレは、気づいていたさ。
えっへん!
猫の霊力、なめんなよ!



だからさ。
オレは、まこの隣で寝ることにしたんだ。
ちび助は、オレが守ってあげなくちゃ。
だって、家族だもんな。



まこは、今日も人一倍、深く深く眠ってる。
普通の子供の何倍も。
深く深く空よりも深く、眠りの世界を飛んでるニャ。

たま神参上!



おいおい。

魂が抜けたように、眠り呆(ほう)けてやがる。
大人になっても変わらないようだな(笑)。



「まこ! 起きろニャ!」


このままだと火事になる。
安全装置のない古いタイプの風呂釜だ。
このまま追い炊きし続けたら、空炊きになって、ぼろアパートもオマエも燃えちまうぞ!



たま神参上!
「天界」から助けに来たニャ!
 (ふみふみ)




ほへ?
変な声を挙げて、まこが飛び起き、風呂場にすっ飛んで行った。

危機一髪。
オレは命の恩猫(人)だ。




だけどさ、ちび助まこ。
オマエも、随分、大きくなったな。


最後に会ったのは、オマエが中学生の頃だったな。
今は、実家を出て、一人暮らししてるんだな。
オマエ、ひとりぽっちで大丈夫か?




そうそう。
あの時は、黙って姿をくらましちまって悪かったよ。
自分の死期を悟ったオレは、ひとりで静かに旅立ちたかったんだ。







正直言うと、本当は、最後までずっと一緒にいたかったけど。






オマエ、絶対、泣くからさ。

























あの頃は、楽しかったな。

あったかかったな。

幸せだったな。



















オレは、まこの隣で寝るのが大好きだったよ。
























もう、一緒にはいられないけど。
























ずっと、天界から、見守ってるから。














でも、もし……。




もし、生まれ変わったら。

















絶対、オマエを見つけるから。
















また、家族になってさ。












一緒に寝ようニャ。

つづく

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