天の羽衣(あまのはごろも)。
夢枕に立つ母は、いつもステキな服を着ている。
ある時は、純白のドレス。
またある時は、上品な和着物。
生前は、自分のお洒落よりも、夫と子供達を優先するような人だった。
あちらの世界では、自分のお洒落を、存分に楽しんでいるようで、何だか嬉しい。
ある日、溶けるように薄く、眩い煌めきを放つ「衣(ころも)」を纏った母が、夢の中に現れた。
繭(まゆ)から作られた繊細な絹に似ているが、その圧倒的な美しさから、到底、この世の代物とは思えない。
これが「天の羽衣(あまのはごろも)」と云うモノなのか?
しゃらん、しゃらんと、柔らかく、唄うように揺れている。
たくさんの人達が関わって。
しゃらん、しゃらん。
あなたの人生を紡いでる。
しゃらん、しゃらん。
強い糸を縒(よ)り合わせると、きっと絆になるでしょう。
あまりの美しさに、「それ、アタシも着たい!」と叫んだほどだ。
こんなに綺麗な服、映画でも、パリコレでも、見たことがない。
「あなたには、まだこちらの着物は早いのよ」
母が笑顔で言う。
どうやら、その服は「あちらの住人」しか着られないらしい。
むむ。
それなら。
もう少し、後にしようかな……。
母の親友。
数日後、母の親友のSさんが、突然、家にやってきた。
母の葬儀以来だが、「近くに来たから、ちょっとだけ、手を合わせたい」とのことだ。
Sさんは、とても優しく、品のある女性だ。
こういう素敵な人が母の親友だったと思うと、ちょっこり嬉しい。
少しの間、楽しく思い出話をし、そろそろ帰るわと腰を上げたSさん。
帰り際に、こう呟いた。
「Tちゃん(母の名前)、いっつも綺麗な服を着て、夢に出てくるのよねぇ」
え?
親友の夢枕にも、立っていたのね。
しかも、Sさんにも、綺麗な服、見せびらかしてたんかぁーい!
でもね。
それで、いいんだよ。
お母さん。
これからは、好きなだけ、お洒落を楽しんでね。
つづく
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