何が視えているの?
となりの里のお不動様は。
とにかく、摩訶不思議なり。
過去も未来も視えているのか?
あるいは、人の心が読めるのか?
どうあがいても、本人以外、知り得ないことも。
お不動様は、はっきりと捉えてているようだ。
最初に、まこが尋ねた質問はこうだ。
母が亡くなった。
「事故」は何故おきたのか、と。
すると。
「本人は、『滑って、捻(ひね)った』と云っている」
お不動様が、静かに告げた。
「びっくりして、慌ててしまった。気が付いたら、頭を打っていた、と」
滑落死(かつらくし)。
そう、母は山から滑り落ちて、頭を強く打ち、死んだのだ。
お不動様の語ったことは。
事故を目前で見ていた父の話とも一致する。
通常、「事故」と聞くと「車の事故」を思い浮かべる人が殆どだというのに。
お不動様には、山から転げ落ちる母の姿が視えているのだろうか。
「可哀想だが、これが天命。寿命だな」
母の言葉。
結局、お不動様は、全てお見通しだった。
母の死以外にも。
その頃、悩んでいた人間関係や。
どうにもならない恋の行方や。
実家の押し入れに放置されている恵比寿大黒様の置物までも。
まるで、隣で見ていたように。
全て、言い当てられてしまったのだ。
(恵比寿大黒様の置物なんて、うちにはないと思っていたが。
家に帰って押し入れを調べてみたら、ホントに出てきた! 恵比寿大黒様が!)
幼い頃から、不思議な体験をしてきたまこでさえ。
総毛立つような、怖いくらいの圧倒的パワーを感じる。
強くて重いチカラ。
そして、深い深い慈愛。
この霊能者(お不動様)は「本物」だと確信してしまうと。
聞かずにはいられない。
母から、何か伝えたい事はありますか?
母の気持ちが知りたいのだ。
だって。
亡くなってから毎晩のように夢枕に立つ母は、多くの言葉を残してくれないのだから。
「旦那にな。頑固にならず、短気をおこさず。人の云うことはよく聞いて、と」
そして、優しくこう付け加えた。
「もう、あいだに立つ人がいないのだから」
そう。
まさしく生前から、母が父に対して心配していたことだ。
短気な父。
人付き合いがヘタな父。
ずっと母が仲介役になることで、何とか周りと上手くやってこられたのだ。
私には?
母は、私に伝えたいことはありますか?
何か欲しいモノは?
私にして欲しいことはありますか?
もう、質問が止まらない。
気付くと涙が溢れている。
聞いてくれ。
母に。
聞いてくれ!
母は幸せだったの?
そもそも。
母の一生は、幸せだったのだろうか?
まだまだ男尊女卑が色濃く残る時代。
見合い結婚で嫁いできて。
夫や子供のために、精一杯尽くした昭和の女性である。
本当は、会社勤めに憧れていたと、生前、本人から聞いたことがある。
綺麗な服を着て、電車に乗って。
思う存分、働いてみたかった、と。
だけど、時代の背景もあり。
両親も夫も許してくれず。
誰にも逆らわず、従順に生きてきた母。
なのに。
何も悪いことをしていないのに。
一瞬にして、全ての「生」を奪われたのだ。
母は、今、天国で何を望んでいるの?
私に出来る事は、ありますか?
あるなら、教えてください!
「今のところない」
お不動様が、シラと告げる。
「して欲しいことは、特にない」
つづく
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